エモーショナルで瑞々しく、時には荒々しい衝動をたたきつけるような、人間の孤独と愛を描き『青い春』『ナインソウルズ』などの傑作を生み出してきた俊英・豊田利晃監督。最新作は芥川賞受賞作家・角田光代の「空中庭園」を原作に、主演に小泉今日子を起用しての話題作。「なにごともつつみ隠さず、タブーをつくらず それが私たち家族のきまり」をルールとしていながら夫は浮気にはげみ、娘は学校をサボってラブホテルに入り浸り、息子は何を考えているのかわからない、実は秘密だらけの彼らの関係を“秘密のない完璧な家族”という虚実にしがみつく妻・絵里子。彼女が固執する完璧な家族像と本当の家族の姿とのズレを、時にはコミカルに、時にはホラータッチに描きながら、本当は最初から存在していた家族間のあたたかい絆を描いていく映画『空中庭園』の完成披露試写会が4月18日ヤマハホールにて開かれた。
 舞台挨拶には豊田利晃監督、原作の角田光代、絵里子役を演じる主演の小泉今日子、絵里子の夫役の板尾創路、娘のマナ役の鈴木杏、息子のコウ役の広田雅裕、絵里子の母役の大楠道代、夫の愛人役のソニン、といった主要キャスト陣が勢ぞろい、撮影時から1年ぶりの再会をみな喜んでいるようだった。
 『青い春』にも食堂のおばちゃん役で出演し豊田監督とは2回目の顔合わせとなる小泉だが、4年ぶりの主演作となる本作について「試写をみて、初めて自分が出ていることが全然気にならなかった映画です。撮影ではみんな本当の家族のように過ごしてました。毎日起きるのが楽しかったし撮影が終わるのがさみしかった。」とキャスト陣の仲のよさを語った。また鈴木杏、広田雅裕といった二人の子供の母親という役についても「実際私と同じ年の友達には高校生や成人した子供がいる人もたくさんいますし、私の姉もそうなので年齢的には大きな子供がいてもおかしくないと思います。杏ちゃんも雅裕くんもかわいい子供たちになってくれてうれしかったです。」と語ると娘役の鈴木杏は「小泉さんがお母さんということですごくうれしかった。」とコメント、また女優の広田レオナの実息であり今作で俳優デビューとなる広田雅裕は「撮影中小泉さんの顔が怖かった。ホラーみたいでした。」と意味深な発言も・・・(作品をみれば納得できると思います。)新人としてデビュー作に恵まれたとコメント。初の愛人役に扮したソニンは「今まで演じてきたなかで一番エロい役で、シナリオも読んで一番エロいと思いました。実際エロくなってるかどうかはわかりませんが(笑)。印象的だったのはラブホテルで小泉さんの母親役の大楠さんととっくみあいのケンカをするところ。わたしも筋肉けっこうあるけど大楠さんの力がすごく強かった!」というと大楠さんは腕に力こぶを作っておどけてみせる。さすが大女優の貫禄というところだろうか「本番では本気で頭をなぐったりしました。」と笑う大楠さん。豪放磊落でありながらナイーブな面もみせた彼女の演技に「女ってみんなそういうものよ。」というシビれる発言も。また、お笑い芸人としても然ることながら最近は俄然役者として多くの監督から重用されている板尾創路は「監督はあまりしゃべらないので、演技をしててもいまいちしているのか自分でもよくわからないまま撮影してました。隅の方におるのかおらへんのかわからない感じだし、演技というよりもドキュメンタリー撮られてるみたいな感覚でした。」と撮影を振り返る。対して監督は、「作品はお客さんにみてもらってはじめて映画は完成します。やっと見てもらえてうれしいです。キャストのみなさんの素晴らしい演技を楽しんでください。」と言葉少なに感激を語った。原作の角田光代は「毎回私の小説の映画化が出てはポシャるので今回もそうなるのかと思ってた(笑)。出来上がった作品をみて「こんなにいい小説私書いたっけ?」と思ってしまうほど素晴らしかったです。」とおちゃめにコメントした。
クライマックスの小泉今日子の迫力には誰もが女優としての彼女のポテンシャルの高さに驚くことだろう。
(綿野)

※『空中庭園』は今秋、テアトル新宿、ユーロスペースほか全国順次ロードショー!!

□作品紹介
『空中庭園』