援助交際していた親友を自分の所為で死なせてしまったと思いこんでしまった娘と、その贖罪の行為を娘の前では激情を押さえつつ、苦悩の末の行為に及ぶ父。そんな3人の関係を、厳しくも温かく見つめたキム・ギドク監督の『サマリア』が、3月26日より恵比寿ガーデンシネマにてロードショー公開される。本作でベルリン、新作『空き家』(仮題)でヴェネッイアと監督賞を連続受賞し、3大映画祭制覇までカンヌを残すのみとなったギドク監督が、にいがた国際映画祭とゆうばり国際ファンタスティック映画祭への出席の合間の25日、セルリアンタワー東急ホテルで来日記者会見を行った。

 会見会場に登場したギドク監督は、映画祭での監督賞連続受賞に関しても「賞を受けたことで環境が変わることはあるかもしれませんが、私自身は変わらずにいようと努力しておりますので、特に大きく変わったということはありません。正直のところ未だに他人事のような感じですし、あくまで私は映画を作る人間であって、賞を取る人間ではありません。私はあくまで自分が感じたこと、考えたことに従って、映画を作る人間なんですよ」とあくまで謙虚な姿勢を崩さない。

 本作を製作したきっかけは、「韓国では最近10代の少女たちが成人と交際する事件が起きているが、それをどうも、加害者・被害者という立場からのみ見ている視点がある。私はそれを、あくまで人と人と関係として、そしてこれらの出来事を皆がどれだけ理解できるかとう点を皆さんに訴えたいと思ったのです。友だちと友だちの関係、そして娘達を見る親の立場から描けないかと思ってこの映画に取り組んだのです」とのこと。

 また、最近の監督作品が、ギドク作品のキーワードとも言える“痛み”を常に存在させつつも、癒しの色彩が強くなっていることについて、世界観や愛、映画に対する考えの変化を尋ねられた監督は、「デビュー作の『鰐』(未)から『ワイルド・アニマル』(未)、『青い門 悪い女』(ビデオ)、『魚と寝る女』、『リアルフィクション』(未)、『受取人不明』(近日公開)そして『悪い男』、『コースト・ガード』(近日公開)まで7本の映画を作っていたときは、私の映画の中には憤怒が爆発し、加虐と被虐、そして自虐が反復されていました。ただそれ以降の『春夏秋冬そして春』、『サマリア』、『空家』と続く作品群が変わってきたことは自分でも感じています。これは私が、今までとは社会に対する見方が変わってきたからだと言えるでしょう。社会をもう少し理解し、また和解をし、世の中をもう少し美しく見ようとする視覚が自分でも生まれてきたのだと思います。『春夏秋冬〜』以降は過激な表現は控えめですし、どちらかというと魂と対話して行くことを自分の中で考えてきたような気がします。私自身も変わったのでしょう。まだ『コースト〜』を作っていた頃までは、私は世の中に対して非情に憤りを感じており、攻撃的で、自分自身にもコンプレックスを持っていました。でも、『春夏秋冬〜』以降は、自分でももう少し楽に世の中をみれるようになったと思っています。ただこの先私がどうなっていくかは、私自身わかっていません」と現在の心境を吐露。

 さらに、「私の映画は三つに大別することができます。一つ目の“クローズアップ映画”は『悪い男』、『魚〜』、『鰐』の3作で、これらは本当に人間の近くまで…瞳が大きく描かれるほどに近づくことによって、感情の機微から強い怒りまでを表現した映画です。近づきすぎることで、人間の良いところも悪いところも本当に細やかに見えてくることを念頭に置き作った映画です。
 二つ目の“フルショット映画”が、『受取人〜』、『コースト〜』、『ワイルド〜』そして今回の『サマリア』です。これらはは人間の全体を見た映画で、社会の中における人間、社会の中で人間がどのように構造的にも矛盾を帯びているかという部分に焦点をあてた映画です。
 そして三つめのロングショット映画が『春夏秋冬〜』です。これは人間も風景の中の一部であると捉えて作った作品です。
 こういった視点に立ち、それぞれが違う3つのイメージを抱いて作品に接してもらえれば、私の映画を理解し、その魅力を味わってもらえると思います」と、自作の鑑賞ポイントを語ってくれた。

 なお『サマリア』は、2005年3月26日より、恵比寿ガーデンシネマにてロードショー公開!
(殿井君人)

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