夢により、他人のそして自身の未来が見えてしまう男、アドリアンヌ。“見えてしまう”悪夢に苛まれながらも、やがて彼は過酷な運命に立向かって行く…。『イフ・オンリー』等で知られるスペインの俊英女流監督マリア・リポルが手掛けた、ミステリアス・サスペンス『ユートピア』で、苦悩する主人公アドリアンヌを演じているのが、『カルメン』等の作品で日本でも人気上昇中のレオナルド・スパラグリアだ。本作で描かれる能力に関し、彼は確とした口調で語る。
 「本作の中で語られていることは一種のメタファー。それは誰であっても、今見えてないものでも将来的にはもっと見えるようになる可能性があると言うことなんだ。人間は成長し、様々なことを知り、経験を積んでいくことによって、今まで見えなかったことが見えるようになり、認識できるようになることを、この映画は予知夢というメタファーを通して伝えようとしている。アドリアンを演じる上で、私自身前よりも色々なものが見えるようになったかとか、予知能力を持てたかということではなく、演じることによって、これまで以上に見えるようになりたいという願望を持つことができたんだ」
 『10億分の1の男』での強運の持主に続き、特殊能力の持主を演じたスパラグリア。特殊な役を演じるにあたり、今回心がけたこととは?
 「予知能力を持つ人物を演じる上でとても興味深く思ったのは、現実よりも先が見えてしまう人間をどのように演じれば表現できるかということなんだ。そして自分なりに考えた末、彼がビジョンを見るたびに彼を襲う肉体的苦痛として表現しようと思ったんだ。実際、彼にとって予知夢で見ることは、他人の苦しみを感じることであり、彼にとっても悲劇なんだよ。痛みを解決する策が見つからないまま、その予知夢故に彼は自分自身に閉じこもってしまうんだ。目の前をヴェールで覆われたような、世界が何も見えない状態だね。ただ彼は徐々に自分を閉鎖状況から解放し、解放されることによって、他人をも解放するような解決策を見出して行く。解放することが出来たが故に、彼の中の未来は決まったものではなく、色々な可能性があることに気づくんだよ。その解放されていく過程を、どのように表現するかもよく考えたね」
 スパラグリアは、アルゼンチンの出身だが、本作をはじめスペインやフランスの作品にも積極的に出演を続けている。
 「自国以外で働くということは、非常に大きな特権だと思っているよ。今回スペインで働いたことでも、アルゼンチンではなかった仕事を選ぶ可能性が拡がって、これまでと異なる考え、世界の見方を自分なりに吸収出来るわけだからね。これからも素晴らしい経験を積み重ねていきたいよ。勿論これからも、アルゼンチンでの仕事も続けて行くけどね」
 憂いを秘めた美貌と、確かな演技力で今後ますますの活躍が期待されるスパラグリア。ファンとしては、ハリウッドへの進出についても気になるところだが、本人は浮ついたところは微塵も見せず、今後の方向生についてこう語った。
 「現時点では具体的なオファーは未だ無い。ハリウッドの映画産業は、それ自体が自己成立しそこで全てがフィードバックされているので、参入するためにはそこにベースを持つことが必要になる。勿論将来的に可能性があれば喜んで受けたいとは思っているけど、そこに住むという形ではなく、これまで私がスペインやフランス等海外からオファーを受けてきたような形をとっていきたい。具体的にこういう作品が作りたいからというオファーがあり、それに対して私が興味を持って関わっていくという形での可能性が出てくれば喜んで受けたいし、私の俳優としての発展性に結びつく可能性を持つプロジェクトでれば、積極的に関わっていきたいね」
  なお、『ユートピア』はシネセゾン渋谷にて公開中!
(殿井君人)

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