有楽町を中心として多くのゲスト、観客を呼び、映画で満たされた9日間を届けてくれた東京フィルメックス2004も本日で最終日を迎える。本年のフィルメックスは、監督選集として内田吐夢作品を見直し、カナダの幻想のカルトムービーメイカー・ガイ・マディン、若くしてこの世を去ったハンガリーの前衛作家・ボーディー・ガーボルの紹介、そして国内外からの充実した招待作品と、個性に磨きのかかる風土豊かなコンペティション作品。今年も数多くの作品が観に来た私たちに期待以上の発見を与えてくれた。そしていよいよ最終日となる今日、有楽町朝日ホールで行われたクロージング・セレモニーでは、そのやはり気になるコンペティション部門の受賞発表が行われたのであった。

まず林加奈子ディレクターより、挨拶として「審査員、素晴らしいQ&Aの場を作ってくれた観客のみなさん、60名のボランティアの方々へ感謝いたします。東京フィルメックスは高い志、広いビジョンを保ちながら、今後も世界の素晴らしさを体験できる場を提供していきたいと思っています。2005年にまた会いましょう!」とのスピーチが行われ、続いてアニエス・ベー観客賞の発表が行われた。サラエボ映画祭を始め、世界中の映画祭に提供、参加し、現在ハモニー・コリンの最新作を制作中というアニエス・ベーサンライズより贈られる観客賞とは観客により直接投票が行われるいわば人気投票として注目されている賞である。受賞作はバフマン・ゴバディ監督『Turtles Can Fly(原題)』。壇上に上がったゴバディ監督は、「観客賞は、自分にとっていちばん心に響く賞です。」と、日本のファンから選ばれたこの特別な賞への喜びを、ほほを赤らめながら語った。

受賞発表は続いて審査員特別賞コダックVISIONアワードへと移り、なんとまた『Turtles Can Fly(原題)』が受賞!ゴバディ監督は「明日国に帰るのが寂しい。イラクでの公開まであと1週間なので、これを報告したら出演した子供たちは喜ぶでしょう。」と、ダブル受賞を果たした喜びを素直に喜んでいる様子であった。

そして、最後に最優秀作品賞が発表された。最優秀作品賞は、審査員代表のドナルド・リチー氏曰く「精神的な構成、詩的で大胆であり素晴らしい。将来巨匠になるだろうという監督」だという、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督『トロピカル・マラディ』に!残念ながら出席できなかった監督の代理としてトロフィーと副賞を受け取った翻訳の藤岡さんは、山形ドキュメンタリー映画祭で初めてウィーラセクタン監督の短編を国外で発表したという縁の持ち主。その藤岡さんから、監督からのコメントが届けられた。そのコメントは「映画とは審査できない芸術であると思います。ですがそれを審査してくださった奇特なみなさまに感謝します。私たちはみなある種のマラディ(病)、映画は進化するのだと信じているという病を持っているのです。」というもの。このコメント一つとっても、監督のクリエイターらしい芸術観が垣間見えるもので、“未来の巨匠”としての独特の主張を感じるものであった。

来年はどのような作品を届けてくれるのか。行けば何か発見がある。そんな単純な理由で足を運ぶ私にも、想像以上の発見をおみやげにくれる豊かな作品性を持つ映画祭。まさに「世界にふれる映画祭」というのにふさわしい世界、ひいては日本との出会いの場、東京フィルメックス。来年の東京フィルメックス2005も、いまからとても楽しみになっている。

東京フィルメックス公式HP

(YukoOzawa)