意外なことに、本作「風を吹かせよう」が東京フィルメックス始まって以来初のインドからのコンペティション部門への出品となる作品である。反戦メッセージ、愛する人への思い、そして若者たちの何気ない日常を、リアルでみずみずしい感性で描き出して注目を浴びているのは、今作が長編デビューとなる俊英パルト・セン・グプタ監督である。今回が初来日となるグプタ監督が、上映後のティーチインに登壇した。

Q:現代に生きる若者たちをテーマに作品を撮った経緯は?

A:「インドとパキスタンは今もカシミールを巡っての戦闘が続いている危険な状態です。その中で若者がどのような思いでこの時代を生きているのかを描きたいと思いました。若者たちは社会問題に対して、ヒンドゥー教にともなう「運命は変えられない」という考え方から、西洋的な考え方が必要とするようになっています。ですがそこにあるのは経済的な欲望だけ。グローバリズムの進展から伝統的な価値観は無視されてきています。そのような消費への欲望、個人的なものの考え方がはびこると、そこに残される問題は、「経済的に満たされたからといっても、自分たちの運命を変えることはできない・・そしてそれができるのはやはり政治的な力によるのではないか?」ということ。彼らも「私たちも政治に参加しなければいけないのではないか?」と考えるようになっているという現状があります。」

Q:デジタルビデオでの撮影ということですが、そのような作品はインド映画界においてどう扱われているのですか?

A:「今回は、お金がないという資金的な問題、キャストのほとんどが素人なので何テイクもリハーサルを行いたかったことという理由でデジタルビデオによる撮影を行いました。撮影にはインド人を起用したかったのですが、やはりまだデジタルは広まっていないので探すのは困難でした。インドで上映されるの多くの作品は大型の娯楽作品なのですが、今作のようなインディペンデント作品もシネコンの普及によって上映される機会は増えています。」

インド映画界の現状から、現代を生きる若者を見つめるその問題意識など、話題は多岐に広がり、インド映画界の現在を伝える貴重かつ充実したティーチインとなった。
実は、インドではその社会的なテーマ性から、検閲の段階にありまだ公開されていないのだという。新しい感性を内包する今作の、インドでの早期上映を願うばかりである。

(Yuko Ozawa)