話題作にして衝撃作。「黄泉がえり」の大ヒットも記憶に新しい塩田監督の最高傑作との呼び名も高い「カナリア」。95年に地下鉄サリン事件後のサティアンへの強制捜査に入った警官隊が先頭に掲げていた、かごの中のカナリア・・あれから10年を迎えようとする今、教団の子どもたちのその後のストーリーとして描かれた本作が東京フィルメックス2004のオープニング作品として迎えられた。

上映後の衝撃の余韻から騒然とする会場で、塩田明彦監督によるティーチインが行われた。以下、会場から多数挙がった質問の中からいくつかだけピックアップしたものをお送りしよう。

Q:脚本の段階から実際にカルト教団や信者に取材したのでしょうか?

A:「オウムから保護された子供たちに興味がありました。その子供や親たちには会っていません。それはただそうすることが不可能だったからです。あっても絶対に質問に答えようとする人はいないだろうということがわかったんです。彼らのその後に関する公的な機関による調査もその後はなされていませんでした。それゆえ最初は困りましたが、数少ない資料はあり、それを読みながら自分の頭の中で何が起こりうるのかということを1年くらいにわたって考えていました。なので、これは実際に起こったことではなく、起こりえるだろうと想定されることを描いたフィクションなのです。」

Q:どういう思いがあって「カナリア」を撮ろうとしたのでしょうか?

A:「人が社会にどれだけの責任を取るのか?ということを考えていました。たとえば、むりやりに信仰を持たされた子供たちはその教団が罪を犯したからといって断罪されていいのか?その答えは非常に難しいものだと思います。そうであればまず、小さなケースから見てみようという思い出この作品を撮ろうと思ったのです。」

Q:子供たちの演技に対してはどのような演出を行ったのでしょうか?

A:「私は彼らが台本をすべて理解したかどうかはわからないけれど、理解しているような気がしたんです。というのは、言葉で説明を求めたら答えられないかもしれないけれど直感でわかっているのだと思いました。私は、「子供は自分たちが考えるよりも直感・表現力をもっているものだとある時気づいたんです。なので現場でなにか特殊な方法論があるわけではなく、彼らが芝居できるんだと確信しているし、実際いままではそれでうまくいっているんですよ。」

たくさんの質問の一つ一つに言葉を選びながらも誠実に、そして丁寧に回答する監督の姿が印象なティーチインであった。
答えはいつもひとつではない・・。みずみずしい映像に包まれ、そして何より自分自身に問いかけずにはいられない強いメッセージ性を持った本作。今、私たちはこの作品を前にして、これを見届けそしてなによりあの事件という事実について今一度問いかけなければいけない時期なのであろう。日本映画の歴史に刻まれるであろう最高傑作にして衝撃作がここに完成した。

(Yuko Ozawa)