誰もが、子供たちに夢や希望をもって欲しいと願う。だが、守ってばかりはいられない。現実にある問題や厳しさを知ったうえで、強く在って欲しいのだ。そんなメッセージが感じ取れる、痛々しくも感動を覚える『ミラージュ』のズベトザル・リストフスキ監督が、主演のマルコ・コヴァチェヴィッチ少年と共に会見を行った。

Q:マルコをキャスティングしたのはなぜ?
監督:「言ってしまえば、この作品は暗く悲しい映画です。だからこそ、逆の明るいタイプの子を探しました。また、夢見るイノセントな少年がタフになっていくという、どちらも演じられる柔軟な子を。3ヶ月かけて、1万人くらいの子供の中から見つけましたよ」
Q:少年を取り巻く環境は厳しいですね。マケドニアの社会的現実を伝えたかったのですか?
監督:「現状を伝えたい気持ちは、確かにあった。それは国内に向けてというよりは、国際的な視野で。黒澤明監督の悲しい作品のように、感情に訴えられるものはあると思うし、世界に通じるものがあると思います。私にとって映画はコミュニケーション方法のひとつです」
Q:役と自分との共通点は?また、今の夢は?
マルコ:「育った環境が全く違うので、似ているところはありません。そういった意味で冒険ができるというか、ゲームの世界のようでした。撮影がとてもエキサイティングだったので、俳優になりたいです」 
Q:マケドニアの映画業界の現状は?
監督:「マケドニアは200万人の小さな国です。文化庁の資金援助がないと、映画は作れません。映画は1、2年に1本くらいのペースで作られる程度なので、映画業界というものはないに等しいんです。こういった国の事情があるからこそ、東京国際映画祭のコンペティション部門として選ばれたことは、本当に喜ばしいです」

 マルコ少年が、映画の撮影の前後で自分が変わったと思うところは?と問われ、「ありません。撮る前も撮った後も、同じマルコです」と凛とした表情で答えた場面があった。幼いながらもしっかりと自分らしさを表現できているところに、“原石”を見た気がした。現段階では配給はどの国でも未定とのことだったが、ぜひ、多くの人に観て頂く機会が生まれてほしい。
(村松美和)

□作品紹介
『ミラージュ』
□東京国際映画祭
http://www.tiff-jp.net/index_j.html