毎年TIFFの中でも特に秀作ぞろいで映画ファンの注目を集める「アジアの風」部門。今年のオープニング作品はフィリピン映画「ガガンボーイ クモおとこ対ゴキブリおとこ」。アジアの風部門でもフィリピン映画厳選3本を紹介するなどフィリピン映画の紹介にも力を注いでいるのだ。監督のエリック・マッティは昨年は前作「プロスティ」に続きTIFF参加はこれで2度目。クモの力を手に入れた男とゴキブリの力を手に入れた男の対決を描くド・エンターテインメント作のこの「ガガンボーイ」。上映後おこなわれたティーチインでは、さまざまな質問が飛び交った。

———この作品をつくったきっかけは?
「前作「プロスティ」は個人的な作品でした。そのあと別の作品に取り掛かっていましたが5日目で撮影中止を余儀なくされてしまった。そんな時この作品のプロデューサーから声をかけてもらった。それまで、自分の企画以外で映画を撮ったことはあまりなかった。企画を聞いて「スパイダーマン」のパクりをやるのは楽しいけれど、製作費がそんなになかったのでチープなものにしたくはなかった。それで、全面的に脚本をリライトさせてもらってからこの作品がはじまりました。僕にとってはこうしたコメディを撮るのは2本目です。」

———ゴキブリ男の造形について
「最初はクモおとこの敵はミツバチの予定だったんですが、プロデューサーのお孫さんにデザインを見せたところ、「怖くない!怖いのはゴキブリよ」という一言でゴキブリおとこに決定しました(笑)。クモおとこの衣装はつぎはぎのもので僕がすごくこだわった部分でもありますが、プロデューサーはスパイダーマンみたく赤と青でかっこいいものにしたかったみたい(笑)。作品を見たときも彼は「すごく閉塞的でダークじゃない!」とびっくりしていましたし。最初からそういう脚本だったのにね(笑)」

 マッティ監督のコメントからはプロデューサーとの喧々諤々の映画制作過程や、作品への愛など様々な思いが感じられ、こうした今観た作品についてそれを作った本人がすぐその場で答えてくれる臨場感や感動は映画祭でしか味わえないもの。マッティ監督は、「かつてはインドに次ぐ映画大国であったフィリピンもハリウッド映画の輸入によって国内での映画製作数が減少し、得意であったアクション映画もだんだんと衰退している」と現在のフィリピンの映画事情も明かしてくれた。しかし、そんな苦境もなんのその!こんな愉快でキュートな「ガガンボーイ」があるじゃないか!マッティ監督の気になる次回作はなんとホラー映画だとか。ホラー映画はフィリピンではまだ未開拓分野、どんな作品を作ってくれるのだろうか。また映画界の世界的なホラーブームにフィリピンから新しい風が吹いてくることを今後期待したい。アジアの風部門ではこの他に2本厳選のフィリピン映画(「ASTIG」「防波堤の女」)を紹介している。「ガガンボーイ」とはまた趣向の違ったフィリピン映画の魅力に触れるべし。

□東京国際映画祭
http://www.tiff-jp.net/index_j.html