チェコの巨匠ヤン・シュヴァンクマイエル作品をほぼみることができる「ヤン・シュヴァンクマイエル映画祭2004」が渋谷イメージフォーラムにて上映中。7月17日(土)にはトークイベントも開催され、ゲストには漫画家の吉野朔実さんが登場した。『恋愛的瞬間』『少年は荒野をめざす』など繊細でインテリジェンスな作風の吉野さんだが、実は映画のレビュー本も出版されるほどの映画好き。はじめてのシュヴァンクマイエル体験は?という司会のくまがいまきさんの問いに、
「はじめて観たのは『アリス』。『ストリート・オブ・クロコダイル』のクエイ兄弟の先生みたいな存在だった人ということは知っていて、どんな人だろう?と思っていたんですよ。」と吉野さん。「クエイ兄弟と比べて、シュヴァンクマイエルは根が深いというかもっとドロドロしてて業の深さを感じましたね(笑)。」
シュヴァンクマイエルを知るきっかけがクエイ兄弟だったとはなんとも映画マニアさを感じる返答です。「『悦楽犯罪者』をみたとき、こういうばかばかしいことを真剣に作っている人がいることがすごくうれしかったです。ヤンの面白いところは、アニメーションで物を動かして擬人化するのではなく、あくまで物を物として扱っているところ。あとイス、釘、ドロとかそういうもの。」 
また、野菜がどんどん腐っていくようすを追った一分弱の超短編『フローラ』については吉野さんの薀蓄が飛び出します。
「腐っていくのをずっと追っていくっていうのはピーター・グリーナウェイの『ZOO』を思い出します。あの映画に出てくる双子の学者は、クエイ兄弟がモデルらしいですよ。それを知ったとき、ああこの人たちは同じ国の住人だわ!と思いましたね(笑)。」クエイ兄弟はヤンの作品に音楽を書いたりもしている、と司会のくまがいさん。やはりそのへんの人脈のつながりには作品をみても納得ですね。

 吉野さんのシュヴァンクマイエル初心者へのおすすめは「短編の方が観やすいと思います。『FOOD』なんか面白いです。長編ならやっぱり『アリス』かな。アリスっていろんな人が作っているからそれぞれの違いとかもわかりやすいと思うし。時計をもった兎が剥製で自分で釘をぬいて動き出したときにはびっくりしましたよ。ぜんぜんかわいくないですよ。」と。
ヤンの最初の作品は『シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック』(’64年)。ルドルフII世にオマージュを捧げた『自然の歴史』(’67年)や、アルチンボルド的な素材や粘土(クレイ)の動きが圧倒的な存在感を示す『対話の可能性』(’82年)など、数々の優れた短編を撮り、当時の共産党政権下でブラックリストに載りながらも(1968年の『庭園』は20年間上映禁止処分を受ける)、国外の映画祭で圧倒的な評価を受け、活動を続ける。 キートンのスラプスティックコメディやカフカ的不条理感に満ちた『部屋』(’68年)、サッカー熱をモンティ・パイソンのテリー・ギリアムのような切り絵と粘土で表現した『男のゲーム』(’88年)など、ブラックなユーモアも特徴的。
87年に初の長編アニメ『アリス』を完成させ、1989年のビロード革命後は、『ファウスト』(’94年)、『悦楽共犯者』(’96年)と順調に長編を撮り続けている。

 
 1934年生まれの御年70歳となるヤンだが、現在新作を準備中だとか。完成は来年。知る人ぞ知るヤン・シュヴァンクマイエルのちょっとグロテスクでダークファンタジーな世界。あなたも体験してみませんか?
(綿野)

☆「ヤン・シュヴァンクマイエル映画祭2004」はイメージ・フォーラムで開催中!

毎週土曜日はトークショ−
7月31日(土)18:00〜 ゲスト:しまおまほ(漫画家)+木内昇(spotting編集長)
8月07日(土)19:00〜 ゲスト:赤塚若樹(評論家)+ペトル・ホリー(翻訳家)
※入場無料。ただしその回の上映をご覧いただく方のみ参加出来ます。
※整理券は当日10:30より受付にて配布。

<□公式ホームページ ヤン・シュヴァンクマイエル映画祭2004