テレビドラマ化もされ大ヒットとなった『ウォーターボーイズ』から3年を経ていよいよ今夏公開になる新作『スウィングガールズ』が今かと待たれる矢口史靖監督。大学在学当時に制作した『雨女』が90年のPFFアワードグランプリを受賞した後、PFFスカラシップとして制作したデビュー作『裸足のピクニック』以降、『ひみつの花園』『アドレナリンドライブ』そして『ウォーターボーイズ』と矢口史靖の快進撃はPFFをきっかけに始まったといっても過言ではない。今回は将来を最も期待される映画監督の一人となった矢口史靖監督の原点をふりかえってみよう!ということでPFFアワードグランプリ受賞作の『雨女』が上映された。

だらだらと降る雨の中、コンビニでボウリング投げきゃべつ畑荒らし・・・etc 、無意味に暴走する二人の女の子たちを描いたデビュー作『雨女』は、今の彼の映画からはちょっと意外なような、狂ったエネルギー(失礼)がそこここにみなぎっている作品だった。雨と題された第一部と、晴れと題された第二部で構成されており、それぞれは全然別のテイストで描かれる。「終」と出てもちっとも終わらなかったり、一般の人をむりやりストーリーに巻き込むようなドキュメンタリーチックな試みあり、ホラーテイストありの、観客をありとあらゆるアイデアでびっくりさせるような仕掛けがてんこ盛りとなってすごい形相をみせている作品だ。当時から一貫して常に観客を意識した映画つくりをしてきた矢口監督の姿勢がうかがえる。主人公につぎつぎと災難がおそいかかってくる部分などのちの矢口テイストがみられるのも興味深い。

上映後には矢口監督自身が登場し、自らを振り返りながら制作当時の様子を語ってくれた。改めて作品を観た監督の感想は「『ウォーターボーイズ』で好きになってくれたお客さんには嫌われちゃうかもしれない(笑)。『ウォーターボーイズ』はお客さんに楽しんでもらうための映画だけど、『雨女』は別の意味でサービスたっぷりでしたね。ちょっと意地悪な感じのサービスがいっぱい。こんなお客さんに喧嘩売ってる映画だったのかーと思いましたよ。」と意外な様子。矢口監督の話で一番驚いたのが、映画制作のために有り金をすべてつぎ込んでいたため当時大学のそばにあったトイレも水道もない農家の小屋を5000円で借り、そこで寝泊まりして生活費を節約していたのだというから驚きだ。「その時は気づかなかったけど、お風呂とかあまり入れなかったしすごいくさかったかも・・・」と笑って話す矢口監督、今の様子からはにわかに信じられない話である。飄々とした矢口監督だけれどそれくらいハードボイルドに生活のすべてを映画を作ることにかけていたのだ、映画を監督するのはやる気さえあれば実現できることだけれど、実際に職業として映画監督になるということはそれほどの心意気がなければ難しいのだとあらためて実感させられるのであった。
(綿野)

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