年に60本以上の映画が製作される映画大国イラン。
マジッド・マジディやアッバス・キアロスタミだけではないイラン映画も知ってほしい。今回イラン映画祭2004ではそうした思いから、イランを代表する巨匠たちの未公開作品に加え、今まで紹介される機会のなかったアクションやコメデイなどエンターテインメント色の強いラインナップが組まれたことが大きな目玉となっている。

映画祭2日目に行われたシンポジウム「イラン映画の過去。現在、未来」は、イラン映画界の活況の社会的背景や、イラン出身の俳優たちの置かれている状況など今まで語られることが少なかったイラン映画の一面が、来日中の本国映画界の今を代表する3人のパネリストによって語られる画期的な時間となった。

まずは、イラン映画が世界的にも高い評価を受けるに至るまでの歩みを期間中に上映される『クスノキの匂い、ジャスミンの香り』の、バフマン・ファルマナーラ監督が語った。
「70年代当時、映画館はおしなべてハリウッド映画ばかりを上映しており、たとえ良い映画を撮ったとしても上映する場所がないという現状であった」という。もちろん映画を志す若者が映画について学ぶ場所もなく監督本人もカナダへ。現在活躍する主な監督たちものきなみフランスやイギリスへと飛び出していったのだとか。そうして再び故郷へ戻ってきて作品を作った彼らはニューウェーブと呼ばれ、現代へ続くイラン映画の潮流を作り出していく。そうしてイスラム革命が起こる。革命後は、「イラン映画以外の作品の上映が禁止されるようになり、代わりに国内の映画への助成が行われるようになり、ほぼ全てのイラン映画がサポートを受けられる体制が整った。そうして、現在では「63歳の自分や、14歳のハナ・マフマルバフまで、幅広い世代の厚い層ができた」のだ。

そのような政府の方針により、イラン映画のサポートを実行する組織がファラビ映画財団だ。財団のアリレザ・レザダードは「作品を制作する時は、利益は重視していない。その作品が長い時間をかけて人々に影響を与えることを考えると徐々に回収出来ているものだ。7作目で評価され、既存作が軒並み高い評判を得るようになったアボル・ファスジャリリはいい例だ。」と、国の芸術への深い振興を伺える一話を披露した。

また、俳優から見たイラン映画界はどうであろうか?現に、素人の子供たちを起用し、彼らの自然体の演技が感動を誘う作風で日本でもファンの多いキアロスタミのように、役者ではなく素人で映画をを撮影している印象が強いという人も多いだろう。『桜桃の味』等の名優レザ・キアニアンは「イラン映画は監督とカメラマンと村人の3種類の人種で作られてるわけじゃないよ。」と冗談まじりに切り出しつつ、「そういった人間味あふれる作品も大好きだけど、イランの役者たちはは元々は演劇を主に活動していて、演劇の世界から転身して映画等に出演するケースがほとんどだった。」のだとか。その後、「娯楽作が台頭し、映画スターに人気が集まるようになり、一時は映画界から離れるようになる。そうしているうちにニューウェイブがおとずれ、ニューウェイブの監督たちは、作品によって全く違う演技をする演劇系の役者のニーズが高まったんだ。」という。

そして、現在はといえば、「マジディやキアロスタミも新作には役者を使うということだし、「役者」で映画を見るとイラン映画をもっと楽しめると思うな。」と提案した。今回の映画祭では役者の演じる作品が多くラインナップされているため、こうした作品でまずはイラン映画界の底力を体感してみるといいかもしれない。

話を通じて感じられたのは、芸術、特に映画を国の文化として守っていくのだという国を挙げてのサポートにより実現した、世代や年代を問わず充実したイラン映画界の層の厚さ。「今後はイラン国内に興りつつある制作会社や配給会社のサポートにも力を入れ、多方面からイラン映画を紹介出来る体制を整えたい。」と、更なる振興を目指す財団のアリレザ氏の力強い言葉で幕を閉めたのであった。

(Yuko Ozawa)