都会の片隅で暮らす3人の孤独な心が奏でるせつない不協和音。辻仁成の原作を、リリカルで繊細に映像化した『OPEN HOUSE』が完成から6年を経て、公開中だ。6年…そう、本作は、現在話題作を連発し、日本映画の実力派監督として躍進を続ける行定勲監督の商業監督デビュー作であり、ヒロイン、ミツワを演じた椎名英姫が女優デビューを飾った記念碑的作品であり、まさにファン待望の初公開が実現したのである。
 16日の上映館のシネリーブル池袋に、行定監督、監督とは新作『きょうのできごと』でもコンビを組んでいる椎名英姫、ミツワと暮らすことになるトモノリをやはりデビューしたてで演じた川岡大次郎が来場し、舞台挨拶を行った。現在第一線で活躍する御三方は、ちょっと照れくさそうな仕草を垣間見せながらも、それぞれの出発点となった作品の公開に立ち会った表情は実に晴れやかだ。そんな3人のコメントをお届けしよう。

椎名英姫(ミツワ役)——私にとってもデビュー作であり、6年経った今でも、色褪せることなくリアルであり続けた映画だと思っています。
行定監督は、全然変わってないような気がします。ものを作る姿勢…何処に向って走っていくのかという根本の部分がずっと同じところなんだろうなって、そこが私の監督を信頼できるところなので、そういう部分を持ち続けているなって感じました。
この映画を撮っていた時の全ての出来事が、濃密に心に焼きついてますが、私が一番印象的だったのは、この映画の話をいただいた時に、二人で2時間くらいとりとめのない話をしたんですが、その時の言葉が凄く印象的でした。監督の大事にしていることが、全てわかったようで…。

川岡大次郎(トモノリ役)——6年ぶりの公開で、本当にやった!って感じです。
僕もこの映画に入る前はデビューしたてで、御芝居に関しては無知な状態だったんです。撮影の前にリハーサルをやって、その時に何かこう気持ちを揺さぶられる演出をされた記憶があります。それに単にのせていけばいいのかな…みたいな。僕自身も、当時は判ってなかったんですけどね(笑)。銀座の路上でリハーサルなのにカメラを回したりして、トモノリという役に入る雰囲気をすごくつくってくれた記憶があります。

行定勲監督——今日は新人の行定です。新人なんですよね、今日の映画は(笑)。だから面白いと思うんですよ。ある映画評論家の方が、東京国際映画祭で『きょうのできごと』を観た日にこの作品の試写を観て、「今の行定と過去の行定がいる。面白かったよ」と言ってくれて。今、映画を連発して作ってますが、最初の映画を一番最後に観る機会というのもなかなかないことだと思いますんで、楽しんで見ていただければと思います。
この映画は、後にも先にも一番商業的でない映画だと自分では思ってます。僕にとっては、こういうものが映画の真実だと思って撮ってるんですね。すごくテクニック的には不器用だったり、演出とかが判ってない中で手探りでやっている部分もあります。まぁ、それはおいといて、僕の映画を観ていただいている方はわかると思うのですが、自分で今観て荒削りの原石っぽい感じはするんですよ。全然輝いてないんだけど、よく観ると透明感があったりするような…。
そういう部分て、観客の一人一人がある断片を見て、記憶に留めて後から思ってくれるようなものだと思っているので、やっと6年ぶりに観てくださる皆さんの分だけ映画は完成するものだと思んです。ずっと今まで未完成のまま、僕らは次の映画とかをやってきて、どうしても先に進めない部分があったと思うんだけど、観ていただいて映画は完成するので、それぞれの映画を作っていただいて、良かったとか、悪かったとか、言ってもらえれば幸いです。

なお、『OPEN HOUSE』はシネ・リーブル池袋にて独占レイトショー公開中!

(宮田晴夫)

□作品紹介
OPEN HOUSE