チャン・ソヌ監督の『マッチ売りの少女の再臨』は、一人の冴えない青年が、不思議な少女からライターを受け取ったことから、得体の知れない人物がいり乱れるヴァーチャル・ゲームの世界に飛び込んでいくSF超大作だ。残念ながら韓国本国では興行的には惨敗だったという本作、確かに多彩すぎるキャラクターのさばき方など、ちょっとわかりずらい面もあるのだが、VFX満載に矢継ぎ早に展開するアクション場面は迫力だし、なんと言っても“マッチ売りの少女”に扮したイム・ウンギョンの可憐なふしぎちゃんぶりを見ているだけ(…では決してないよ、念のため)でも美味しい作品なのである。
 「イム・ウンギョンは、韓国では携帯電話のCMで人気を博していたんだけれど、私はその広告のイメージがマッチ売りの少女と重なったので、なんとか彼女を口説き落とそうと追い掛け回したんだよ(笑)。シナリオを渡したところ、気に入ってもらえてね。「何がどうということは判らないけど、気に入った」って。彼女のご両親は障害を持っている方で、そうしたことから子供の頃から苦労もしてきて、内面的にも怒りや悲しみを持っていたんでしょう。今回の映画を通して、そんな内面が判った気がしました。」と語るソヌ監督。実際、彼女がマシンガンを乱射する姿は、無機質なようでいて、観る者の心を揺さぶる何かが感じられた。今後の彼女の活躍にも要チェックだ。
 ソヌ監督は本作を作ったきっかけについてこう語った。「映画作りをする時にテーマやモチーフは、社会的に話題になっているものなどを共有しながら考えていくやりかたで探してます。本作は1篇の詩からインスピレーションが浮かんだですが、そのほかに最近では韓国ではゲーム世代と呼ばれる若者が非常に多く、バーチャルリアリティを楽しむという現象が広くあります。そしてヴァーチャルリアリティとは何かを考える映画を作ってみようということから、この作品は生まれました。勿論、この作品に出てくる動画、ヴァーチャルリアリティの世界は作り物、虚構の世界なのですが、実際我々が住んでいる現実というのも…?という考えがありました。ラストの方で仏教の言葉が出てきますが、そうした考えに基づいて現実と非現実を象徴してみました。この世の中の全ては虚像ではないか?というヒントも与えていたわけです」。劇中の胡蝶に導かれてというヴィジュアルは、そういう意味ではまさにドンピシャ。そして仏教思想について、もう少し補足するソヌ監督「この世の中に二つのものはない。すべてはひとつなのだ。心と身体、神と人間、貴方と私それらは全て一つのもの。そして仏教のもう一つ重要な教えとしては、全てが空だということです。私たちは普段知識やデータを共通しながら生きているわけで、VRも実際の人生もそうです。そしてそのデータも虚像かもしれないし、虚像であっても分析できるのかもしれない。分析できれば、ゲームはクリアできるかもしれない。そうした人は物事を二つにわけて考えない人なんだと思います。」さて、貴方はゲームをクリアできるだろうか?
(宮田晴夫)

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第4回東京フィルメックス

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マッチ売りの少女の再臨