バンド・ブームの波に乗りメジャーデビューはしたものの、ブームの終焉で浮き沈みする“SPEED WAY”の4人組の成長と挫折。みうらじゅん原作の伝説的コミックを、みうらの盟友であり、様々な作品で個性派アクターとして活躍し続けている田口トモロヲが、監督としてデビューを飾った『アイデン&ティティ』。その、ダサくて、カッコ悪くて、でもひたむきな青春ドラマは、東京フィルメックスの観客からも、熱い共感を持って迎えられた。Q&Aに登場した田口監督は、国際映画祭らしくコメントを英語で語る素振りをみせるなど、エンターテイナーらしいサービスぶりで、会場を沸かせた。
 本作製作の動機として原作本を「読んだ時の感動を言葉にできなかったので、映画にした」と語った田口監督。自分のフィールドでこの原作を作品化したいとの想いから始まった企画だが、当初は自分で監督をしようと思ったわけではないとのこと。だがなかなか監督がきまらない状況の中で、「友人の原作ですし…男気 Japanese gat! ね(笑)」ということで、監督を引き受けたそうだ。冗談めかしながらも、その男気は作品からも伝わってくる。
 また田口監督御自身も、ばちかぶりというバンドでボーカルをしていたが、作品と共通するような部分が無かったのかは気になるところ。田口監督は「僕は中島のように、出来そこないのアフロのような髪型はしてなかったですね…」と前置きしつつ、環境や状況は違えども、ご自身がやってられたときに感じた気持ちや、ミーティングと称しての呑み屋での言い合い等の細々とした部分は、いつの時代も変わらないものだと、原作を読んだ時には思ったそうだ。「普遍的なものが描かれていたので、そこに共感したんですね」。
 主役の中島を演じているのは、やはりミュージシャンである峯田和伸。実際のロックの現場にいて、自分自身のロックを探している者ということで、1年以上の探索期間を経ての発見だった。「彼自身も原作を好きだった。中学の時に読んでたらしいんですが、その読んだ時からが役作りだったと、リハーサルでも峯田=中島、中島=峯田でやってくれましてね。僕は映り方や台詞の間とか技術的なサジェスションをするだけで、ソウルフルなことは全て彼自身の中からでてきた。彼と出会えたから、この旅が出来た…なんちゃって(笑)」。
 「みんなの心の中にも、きっとロックは住んでいる」とロック観を語った田口監督。ハートフルで心に響く本作以降の監督作品にも期待したいと思わせる、そんなご機嫌な『アイデン&ティティ』は2003年12月20日よりシネセゾン渋谷他にてロードショー!
(宮田晴夫)

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第4回東京フィルメックス
アイデン&ティティ

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