イラン映画に強い東京フィルメックスの面目躍如。このハナ・マフマルバフという15歳(撮影当時13歳)の少女監督のドキュメンタリーは、今回のフィルメックスのひとつの目玉とも言えるだろう。彼女の父親は、現代イランを代表する人気監督で『カンダハール』が日本でも大ヒットしたモフセン・マフマルバフであり、姉は最年少でカンヌの審査員特別賞を授賞している『ブラックボード 背負う人』のサミラ・マフマルバフ。義母のマルズィエ・メシュキニも監督デビュー作『私が女になった日』が第1回東京フィルメックスで上映されているという、映画一家の末娘・ハナ。その彼女が初めて来日し、初めて日本の観衆とマスコミの前に姿を現した。
 褐色の肌に真っ白なパンツスーツ、白いスニーカーで舞台に現れたハナ監督。舞台照明の関係で質問者の顔をきちんと見ながら答えられないことを詫びる礼儀正しさに、育ちの良さが垣間見える。作品自体が姉サミラが監督第3作目「At Five in the Afternoon(英語原題、2004年日本公開予定)」の出演者をアフガニスタンで探す過程を描いたものだけに、質問は当然のことながら家族とのことに触れたものが目立ったが、思春期にありがちな反発は見せない。
「私や他の家族が映画を撮ろうとすると父は『僕は全て教えてあげたから、あとは自分の目線で撮りなさい』と言って外すんです。父の映画は全て大好きです。私は母のお腹の中にいたころから現場にいます。父の映画を見ると、そのときの家族のこと、思い出を見ているようなします」と実に素直。
 アフガニスタン・カブールでのこの撮影経験から伝えたいことは、との問いには、
「父は『カンダハール』などで、姉は『11’09″01/セプテンバー11』でアフガニスタンと行き来していたのでふたりから話を聞いていました。1度、父が持ってきたブルカを被ったことがあるんです。とても苦しくて全然息ができませんでした。私には、ブルカを被っている女性たちが工場で作られた製品のように同じ顔の女性に見えてきていたのですが、姉がひとりひとりのブルカを上げて女性たちと話をしているのを見て、女性たちはそれぞれにちゃんとした意見を持っていてそれを表現するのでとても驚きました。彼女たちは、5年間タリバン政権下では家からも出れず、まるで刑務所の中にいたようなもの。そして、20年間続く戦争のなかで生まれて育って、子供も戦争のなかで産んで育てた。体験していることは多く、特別な人たちだということに驚きました。9歳の女の子も、タリバン政権下、食料を手に入れなければならなくて家から出たら拷問を受けたということでした。彼女たちから得ることはとても多かったのです。彼女たちは、自分の人生を戦争のなかに経験してきたわけで、それは私が一切経験できなかったことです。今回の経験は、私自身のためにもなると思います」と。
 とは言うものの、この映画にアフガニスタンの人々の辛い経験がストレートに綴られているという訳ではない。出演を口説くサミラに嘘の話で諦めさせようと仕向けたり、1度は快諾しながら身に覚えがないと抵抗を始めたりもする。そこには、アフガニスタンの人々の抱く何かに対する恐怖感、長く続く戦乱・内戦のなかで隣人をも信じられなくなった人々の姿があるのだとハナは感じ、驚きを隠せなかったようで、それが彼女を単なるメイキングの予定だったフィルムを、アフガニスタンの人々を描くひとつのドキュメンタリーの形に変えさせたようだ。
 次回作は未定。
「これからもいろいろな人と接して、経験の高まったところで何か撮れればいいなと思っています。この映画は、いま話したように、アフガニスタンの人々の恐怖感を感じて作ったので、今後も何か自分がそういうことを感じたときにそれで作れればいいかなと思っています」
 なお、本作は、2004年春ごろに東京テアトル配給、銀座テアトルシネマでの公開が予定されている。
(K.MIKUNI)

□東京フィルメックス2004
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