フィルメックスでは、プログラムに関連するテーマに沿って上映とは別にトークイベントも行われている。今年のフィルメックスではコンペにチャン・ジュヌァン監督の『地球を守れ!』と、鏡をモチーフにしたキム・ソンホ監督のホラー作品『鏡の中へ』、招待作品のチャン・ソヌ監督(『Lies/嘘』(99))の新作『マッチ売りの少女の降臨』など韓国映画の注目作が揃っている。前述のコンペ2作については、両監督とも奇しくも同い年で今回が初監督である。そんななか『地球を守れ!』のチャン・ジュヌァン監督と主演のシン・ハギュンを迎えて「韓国映画の未来を語る」と題したトークイベントが開催された。

—舞台挨拶ではアンメルツを配っていましたが、映画も含めてすごく「お客さんを喜ばす」ことへの演出がうまいですね。
チャン・ジュヌァン監督「アンメルツはお客さんにもらったんですよ。あとこの地球のかたちの紙風船もお客さんからもらいました。皆さん映画を観て楽しんでくれていたみたいなのですごくうれしいです!」

—演技で苦労した点は?
シン・ハギュン「この映画はすべてのシーンが大変でした。ジャンルもよくわからないし、感情の起伏もはげしいので一貫した人として演じるのが難しいんですよ。地球の歴史を語られるシーンに出てくるサル(「2001年宇宙の旅」のパロディ)は、実はあれも僕が演じてるんですよ。」

—ファンタジーとリアルの間を揺らめくような作品で、映像も個性的でしたが、撮影監督のホン・ギョンピョさんと色々相談したんですか?
チャン・ジュヌァン監督「はい。フィルムでできる様々なことにチャレンジしようと思ってホン・ギョンピョさんとは話し合いました。有名な技法ですが”銀残し”や、その逆の”ラン・ブリッジ”という手法、あと血の色がうまく出るように工夫したり、冒頭のミュージックビデオのシーンなど色んなことを試みました。」

—監督とシン・ハギュンさんは今でも仲良しだとか?
チャン・ジュヌァン監督「2人ともお酒が好きなので、撮影中は打ち合わせと称して飲んでばかりいました。今でもよく飲みにいく仲です。」
シン・ハギュン「(笑)」

—主人公の恋人役のおでぶのスニちゃんがすごく魅力的でしたね。
チャン・ジュヌァン監督「彼女は演劇畑の人間で、韓国にテハンノという演劇街があるんですが、”テハンノで一番ぶさいくな女優”といわれていたんです。でも彼女すごくキュートで可愛らしいですよね。すばらしい女優です。」

—シン・ハギュンさん、今後やってみたい役っていうのはありますか?
シン・ハギュン「僕はあまり役で仕事を選ばないんですよ。ストーリーで選んでいます。共感できたり、自分がいいと思う作品に出たいです。」
チャン・ジュヌァン監督「つまり、どんなキャラクターも演じることができるという自信のあらわれなんですよ!」

—最近観た映画で気に入ってる作品は?あとお2人の今後の予定は?
チャン・ジュヌァン監督「バンクーバーの映画祭で『牛頭』(三池崇史監督)をみました。すごくユーモラスだし観ていてとても痛快でした。僕の今後の予定は、新作はまだ全然です。シナリオは準備してはいるんですけどね。自分に嘘のない作品にしたいと思っています。」
シン・ハギュン「日本に来る前日に丁度エヴァンゲリオンの劇場版を観ましたよ。エヴァはテレビアニメをずっと観ていたんですが映画だけ観ていなかったんですよ。面白かった。あと監督が言ってた『牛頭』、僕も観ましたよ!これも面白いですねぇ。僕の次回作はまだ決まっていません。今は遊んでばかりです(笑)。」

2人の口からまさか『牛頭』が出てくるとは思わなかったが、となるとジュヌァン監督は『殺し屋1』は見ているのだろうか?筆者の感想ではシン・ハギュンが演じた『地球を守れ』の主人公は、『殺し屋1』のイチに電波系が入ったみたいなキャラクターだと思った。追いつめられたいじめられっこのブチ切れってところ然り、なんとなく大森南朋に似た風貌をシン・ハギュンに見た。マジかよ!って思った人は是非『地球を守れ!』チェキラしてください、といいたいところだけど、悲しいかな『地球を守れ!』はまだ配給がついてないため、日本での公開は未定となっている。こうした未公開作品の傑作に出会えるのも映画祭ならではの魅力のひとつだ。

(綿野かおり)