東京フィルメックス2003:『地球を守れ!』はアンメルツ片手に妄想系主人公が大暴れ!
東京フィルメックス2003、2日目の第1作目の上映はコンペ作品、チャン・ジュヌァン監督『地球を守れ!』(韓国)だ。初監督だけあって、少しストーリーが消化しきれてない部分や、要素のつめこみすぎなが目につくが、なんといってもアイデアと情熱と作品のもつパワーがそれを押し切り、大ファンタスティック映画に仕上がっている。
地球を滅亡させるために宇宙からやってきたスパイに違いないと、大企業の社長を誘拐・拉致し拷問。エイリアンである証拠をつきとめようと大真面目な主人公、その迷走ぶりに会場は爆笑に包まれた。
上映前に行われた舞台挨拶ではチャン・ジュヌァン監督と主演のシン・ハギュンが、この作品中に登場する爆笑アイテム、アンメルツ(液体湿布)とアカスリをもって登場。「目や敏感な部分には塗らないでね」(ジュヌァン監督)「アカスリをしてアンメルツしちゃだめだよ。アカスリはつよくこするとかなり痛いんだよ。」(シン・ハギュン)とお二人。壇上から降りて何個か観客にプレゼントするシーンも。
上映終了後は観客から監督への質疑応答がおこなわれた。
———製作の経緯は?初監督にしては予算がかかってるのでは?
チャン・ジュヌァン監督「まずはじめにアイデアは浮かんで脚本を書いたんです。シン・ハギュンに主演を依頼したんだけど彼がその時ちょうど忙しくて駄目だったんだ。でも書き直したりしているうちに彼の体もあいて、撮影に入ることができたんだ。予算は最初は低予算のつもりだったんだ。だけどやっているうちにアイデアも大きくなっていってしまって当初よりはお金がかかってしまいました。でもそんなにすごいお金をかけているわけでもないんですよ。」
———ソン・ガンホさんがチラッと出ている気がしたんですが・・・
監督「ソン・ガンホさんは出ていませんよー。実は、ラストに出てくるニセモノの宇宙人の王子役、あれは彼にやってほしかったんだけど『殺人の追憶(原題)』で忙しかったんだ。」
———笑ってみていましたが、とても重たいテーマですよね。処女作にこの作品を選んだ理由は?
監督「地球の中の韓国というところで生きる自分、という視点で描きたかったんです。テーマはシリアスだけどそれだとお客さんもつらいのでユーモアで描きました。日常生活でもユーモアが大好きなんですよ。」
———主題歌の「オーバー・ザ・レインボウ」は劇中にも何度も流れていますが、どうしてこの曲を選んだんですか?あと、色んな映画のオマージュが入ってると思いますがそれについては?
監督「主人公のキャラクターなら「オーバー・ザ・レインボウ」を好きかな?って思ったからです。恐怖、悲しみ、楽しさなどシーンによって色んな風に聞こえるし色んな印象をもっている曲だと思うんです。エンドロールの映像で、主人公が昔好きだった女の子からこの曲を教わるシーンが入っています。彼がこの曲を好きになるきっかけのシーンです。映画のオマージュは意識して入れているわけじゃないけど、ヒッチコックからターミネーターまで色んな映画の要素は入ってると思いますね。キューブリックについての自分なりの解釈もちょっと入ってますし。そういうことができて、自分でも作っていて単純に楽しかったです。」
———思い入れのあるシーンは?
監督「ラストの○○です。(ネタバレにより自粛)。ちょっと悲惨なラストですが、エンドロールで流れる主人公の人生を追った映像をみているとすごく地球ってやさしいでしょう?その対比を出したかったんです。主人公は感情の高低が激しいから、一人の一貫した人間としてトーンを統一させるのが難しかったですね。今回最初から最後まですごく大変だった。でも最初から最後まで楽しんで作りました。」
主人公は正気か狂っているのか、もしかして本当にエイリアンはいるのだろうか?という主軸に加え、誘拐された社長を追うアウトロー刑事との攻防、主人公の悲しい生い立ち、おデブで愛嬌者の主人公の恋人スニとの結末が絡んで二転三転するストーリーからは、監督が観客を楽しませようとするサービス精神が強く感じられる。チャン・ジュヌァン、今後の成長がもっとも楽しみな監督の一人である。
(綿野かおり)