大企業の重役を狙った猟奇的な連続殺人事件。重油に塗れ、大量の煙草で肺を焼かれ、そして有害物質で狂気の笑みを浮かべて死んだ犠牲者たち。犯人は環境破壊を憎む余り、一線を超えてしまった薬剤士。そして彼は、同じく環境破壊を憎む同士でもあった刑事と対決を迎えることになる。
 『謎の薬剤師』は、ブラックで、奇妙な味わいのファンタスティック・サスペンスだ。ヴァンサン・ペレーズが妖しくもエキセントリックな薬剤師を演じ、彼と奇妙な友情関係を持つ刑事には、ヴァンサンが監督を務めた『天使の肌』で主役を演じたギョーム・ドパルデューが扮し、ミステリアスな関係がなんとも心地よい。
 11月6日オーチャードホールでの上映後には、本作のプロデューサーのニコラ・ヴァニエ、本作が長篇監督デビュー作となったジャン・ヴェベール、薬剤師役のヴァンサン・ペレーズを迎えてのティーチインが開催され、その斬新なテイストに魅了された観客から熱心な質問が寄せられた。
 ジャン・ヴェベール監督は、『キャプテン・スーパーマーケット 死霊のはらわた3』でサム・ライミ監督のアシスタントの経験があるとのこと。奇天烈な殺し方等は、ライミの影響?「僕としては、オリジナルな殺し方を考えたつもりなんだけどな(笑)。サム・ライミ監督はとても謙虚で明快な方なので、むしろ監督はそうあるべきなんだということこそを学んだんだ」とのこと。それでもこの監督デビュー作からも判るとおり、ご自身ファンタスティックが大好きだという。薬剤師が犠牲者を追って、屋根を突き破って部屋に降り立つ場面等、そうした嗜好が良く出ている。「薬剤師は、第六感を持つ超自然的な人物であることを出そうと思ったんだ。そこには、ドラキュラ的な要素も狙ってみたよ。そして、悪魔的だが、表面的には天使のような人物であるこの役を演じるのは、ヴァンサンしか考えられなかったね」(ヴェベール監督)。
 そんな監督の期待に応えて、存在感たっぷりの薬剤師を演じたヴァンサン。「このような役は全く初めてのことで、大変面白かったね。非常に厭味な役でもあり、悪人でもあるわけだけど、その行為は彼が人生で疑問を投げかけよかれと思っていることなのも事実なんだ。たまたまそれを実現するやり方が間違っていただけでね。そうした二つの要素が合わさる役というのは、大変遣り甲斐があったよ。ただ、薬局に行った時に、歓迎されないことを除けばね(笑)」と役作りについてユーモア交じりに答えた。
(宮田晴夫)

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