ジュディ・オングと言えば多くの人が思い出すのは名曲「魅せられて」だろうが、日本と台湾両国でともに人気を博した国際派スターの先駆者である。本年の東京国際映画祭「アジアの風」部門の特集のひとつ“「魅せられて」前夜—ジュディ・オングの台湾映画時代”では、70年代前半に台湾で制作され日本で上映されることのなかった彼女の魅力満載の3作品『愛の大地(73年)』『ジュディのラッキー・ジャケット(72年)』『ニセのお嬢さん(71年)』を上映し、彼女の功績を検証している。その特集の最後の上映となった5日『愛の大地』の上映後、ジュディ・オングさん本人を迎えてのティーチインが開催された。
 上映作品が撮られた30余年前と変わらぬ美貌にしっとりした落ち着きを加えたジュディさんは、オレンジのレザーのパンツスーツで登場。「自分の昔のフィルムを、東京国際映画祭で上映していただけて、本当に光栄に思っています」とまずは一言。
『愛の大地』は延べ12日間で登場シーンの全てを撮り終えたが、撮影の最中に風邪で高熱を出して寝込んでいたら診察に来た医師に歌をせがまれたこと、また、コメディ作品『ジュディのラッキー・ジャケット』は、日本でもレギュラー番組2本を抱える多忙な時期に二国間を行ったり来たりしながらの撮影し、完成後30年経った今回の上映で初めて完成作品を見たこと、『ニセのお嬢さん』では台湾アカデミー賞(金馬奨)の最優秀主演女優賞を最年少で授賞したことなど様々なエピソードが次から次へと飛び出す。これら3作品は、歌謡映画としての側面があり、ジュディさんの歌声がたっぷり聴ける構成になのだが、なかでも『愛の大地』は台湾版「サウンド・オブ・ミュージック」とも言うべきミュージカル作品で、「撮影前にレコーディングをしたのですけど、そのときから『これはこういうシーンで使うので、その気持ちで歌ってください』ということが監督(音楽監督兼任)からありました。撮影現場に音楽を持ってきて流して、音楽を大切にしながら(役の)気持ちを作らせる監督でしたね」と。サウンドトラックも大ヒットし、シンガポールではレコードの生産が間に合わなくなるほどだったという。
 そんな華やかなキャリアの数々も、「いつも自然体できちゃったんですね。いい歌にめぐり合ってそれがヒットして、また、台湾に呼ばれて映画を撮りに帰って、そして日本に戻って映画とかドラマに出て、知らぬ間に『魅せられて』という曲が出て1日に10万枚売れちゃった。『愛の大地』の大ヒットも、私が頑張ったわけではなくて曲が勝手に動いてくれたわけで、何か自然に流された感じ。いま、日展に作品が出ているんですよ。それも自然の流れ」と縁であると受け流す。今後も、今までと変わることなくアジアがひとつになっていけるような活動を重ねていきたいと語り、数年前にリアレンジしてレコーディングし直したという『愛の大地』の主題歌「海鴎」をステージで披露。変わらぬ艶やかな声で客席を魅了していた。(K.MIKUNI)

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東京国際映画祭