今年のニッポン・シネマ・フォーラムは、日本映画の復権をテーマに掲げ、二つの視点から良質な日本映画を紹介している。“メディア・セレクション”と題された会期の前半は、人気女性誌『FRaU』が選出した7作品が渋谷シネフロントにて上映された。11月2日夜の上映作品は、田辺聖子の短編小説を妻夫木聡、池脇千鶴の主演で映像化した切ないラブ・ストーリー『ジョゼと虎と魚たち』。当日は上映前に犬童一心監督、主人公恒夫に思いを寄せる香苗を演じた上野樹里、プロデューサーの久保田修氏、小川真司氏が舞台挨拶を行い、また上映後には犬童監督と両プロデューサーによるトークが行われた。
 本作の製作のきっかけとして、兎に角長いことラブ・ストーリーを作りたいと題材を探していたという久保田氏。そんな中で、この原作小説を後にご自身の奥さんになられた女性から紹介されて気に入り、犬童監督に声をかけたそうだ。その話し合いの中で、主役の二人には妻夫木と池脇の二人を想定し、原作を読んでもらった。当初池脇は原作をとても気に入りながらも、できるかどうかは判らないということだった。「それは、それだけ原作を理解しているってことなんですよ」(犬童監督)。その後しばらくして、難しさ故の魅力に惹かれた二人サイドから出演の返事をもらった上で、脚本は監督が旧知の渡辺あや氏に二人の宛書という形で依頼された。「ところが実は、最初渡辺から断られたんですよ。事情は、彼女自身が田辺聖子をひじょうにリスペクトしていて、自分なんかではおこがましいという思いがあったそうです。それとこの原作が、彼女自身のオリジナル・シナリオと一部だぶる部分があったということもありました。しかし、やはりこの作品の魅力故、引き受けてくれたんです」(久保田氏)。
 そうして正式に依頼してから2週間ほどで、渡辺氏から初稿があがってきたが、その中には現在映画となったものの原型はほとんどあったそうだ。そうした中で、犬童監督や両プロデューサーによってわずかに加えられた部分がある。それは、冒頭の回想形式(小川氏による)や、終幕での恒夫の感情を現す部分など。個人的にも、結構ぐっと来てしまった部分なのだが、そうした部分は通じるものだとして書かずよりシビアだったオリジナルの脚本に、センチメンタルな部分を付け加えていったのは専ら「『追憶』が最高のラブ・ストーリー」という彼ら男性チームだったとか。これは、見ていて非常に納得。男性、そして女性の皆さんはそれぞれどう感じるか。劇場公開時に確認して欲しい。
 なお、『ジョゼと虎と魚たち』は2003年12月シネクイントにてお正月ロードショー!
(宮田晴夫)

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