『パーフェクトブルー』、『千年女優』と緻密な映像による現実に根ざした世界の中に、極上のファンタジーを巧みに盛り込んだ作品で、内外を問わず高い評価を受けている映像作家、今敏監督待望の長篇監督第三作『東京ゴッドファーザーズ』が完成した。粉雪の舞うクリスマスの夜、赤ん坊を拾った3人のホームレスが、赤ちゃんの親を探して奮戦する姿と、彼らが出会う様々な“幸運”を描き、実写でもありそうでありながらもまさにアニメーションならではの楽しさと満足感に満ちた快作に仕上がっている。
 ロードショー公開を目前に控えた10月28日、デジハリ東京本校セミナールームにて、デジハリ校長杉山知之氏の進行による、今敏監督を迎えてのスペシャル・トーク・ショーが開催された。トークは今監督の映像作家として歩んできた道のりから、アニメーション監督という仕事、そして内外でのアニメーション事情などまで多岐に及び、またトーク終了後のQ&Aでは、映像製作を目指す方を中心に、熱心な質疑が行われた。
 『東京ゴッドファーザーズ』は、前作『千年女優』の製作が大詰めの段階で次回作の話があり、ほとんどインターバルを置かずに製作に入ったオリジナル・ストーリー。クリスマス・ストーリーであり、ゴミ置き場で見つかる赤ん坊と見つけるのが3人のホームレスというのは、スタートから決まっていたという。そして脚本化の段階では、男性性・女性性を供に豊かな作品にしたいとの考えから、今監督とは旧知の中でキャラクター描写に長けた信本敬子氏に依頼した。また、クリスマス・ストーリーではあるが、キリスト教色のみに固めるのは避けようと、日本の宗教や風俗を盛り込んで多元的な物語展開を目指したそうだ。実際作品のほうは、クリスマスからニューイヤーズ・イブまでの数日間の物語でありながら、様々な階層の人間たち、社会の事象が交錯する濃密な展開となっており、その旨味は是非劇場で味わってもらいたいものとなっている。
 今監督の作品は、そのリアルで緻密な映像に定評があるが、東京の街と風俗をこれでもかとばかりに描きこんだ『東京ゴッドファーザーズ』で、それは一つの頂点に達したかの観もある。次は、実写作品?
 「もともと絵を描くことが好きではじめた仕事ですから、(実写に)転進する気はありませんよ。ただ皆、昨日よりつまらない絵は描きたくないと思っているんで、その蓄積なんですよ(笑)。画面から受ける写実性は、これまで3本で一番高いかもしれませんが、決して写真のように書いているわけではないんです。1枚切り取ってらしさが詰まっている絵とは、再構成するように風景を組み合わせて作り上げない限りできないんです。実は実写の方が、そのへんに酷く甘くなってるのでは?と思えるのは、例えば日本映画の街や部屋が出てくる場面に、リアリティのかけらも感じられないのです。場所に対する興味や思い入れが無い人間が作った画面は、15秒と見てられないんです。ただ写しただけで、再現する気が無いんだからしょうがないでしょうが、面白くない。ただこの先、これ以上にリアリティの解像度を上げていこうかといえば、そうでもない。『東京ゴッドファーザーズ』の場合、背景美術に関してはものすごく写実性を高めて作ってますが、片方でキャラクターに関しては一番デフォルメがきつい作品なんです。それは矛盾なんですが、そういう矛盾が面白いし、どうやったら面白い矛盾が作れるかを考えた時に、まだまだアニメーションの可能性はあると思うんです」(今監督)。
 映像とその可能性への強い想いを語った今監督、現在は来年2月にWOWOWにてオンエアされるオリジナルTVアニメシリーズ『妄想代理人』の製作の真只中とのことで、その映像の一部は『東京ゴッドファーザーズ』上映劇場でも流れるとのことだ。あわせて期待したい。
 なお、『東京ゴッドファーザーズ』は第16回東京国際映画祭の特別招待作品として11月3日に披露された後、11月8日よりりシネセゾン渋谷ほかにてロードショー!
(宮田晴夫)

□作品紹介
東京ゴッドファーザーズ