日本映画界の大巨匠、故・小津安二郎監督の生誕100周年を記念して回顧展、上映会、シンポジウム、ホウ・シャオセン監督による小津へのオマージュ映画『珈琲時光』の製作など、今年は小津関連の様々なイベントが催されている。先日発売された「小津安二郎DVD BOX」もそのひとつ。HMV渋谷ではこの発売を記念して小津フェアを開催するとともに、小津作品『東京暮色』『彼岸花』に出演された名女優・有馬稲子を迎えてのトークショーが行われた。

 今までに600回近く全国を回っている舞台「はなれ瞽女おりん」で紫綬章受賞、勲四等宝冠章を授与され、今では押しも押されぬ大女優有馬稲子だが、小津作品への出演当時の撮影でのエピソード、まだ初々かった頃のご自身について、そして小津監督についてたっぷりと語った。

有馬「小津作品に出たのは、もうウン十年も前のむかーしのことです。東宝とケンカして岸恵子さんに誘われて松竹に移ってしばらくしてから小津監督の作品に出演しました。当時は小津さんの映画って、日常的すぎて自分の周りのことみたいで全然好きじゃなかったんです。私は当時は、『エデンの東』とか『嘆きのテレーズ』とか『天井桟敷の人々』とかに心酔していましたので、小津作品はなんかお茶漬けくさいわ、なんて思ったり(笑)。」

確かにヨーロッパの壮大でロマンティックな映画とくらべると、有馬さんが小津作品をそう評価してしまうのは、しょうがない。しかし、今改めて作品を見てみるとまったく違った感想をもっているという。

有馬「『東京暮色』は、本当に暗い作品で、当時の批評家たちにもあまり評判はよくなかったんです。私は自殺してしまう役だったんですが、どうして自分が自殺するのかその気持ちが全然わからないまま演じていたんです。でも、今見たら、その理由がすごくよくわかるんです。こんなにすばらしい映画だったって今ごろわかりました。下手だな、と思ってた自分の芝居も有馬稲子クンなかなかいいじゃないか、なんて思ったり。『彼岸花』だって、共演の山本富士子さんは綺麗な着物を着て、得意の京都弁で生き生きとセリフをしゃべっているのに、私は地味な役どころでチャコールグレーのセーターなんてきて、セリフも「はい」とか「いいえ」とか控えめなんです。だから山本さんは楽しそうでいいなぁなんて、ひがんでたんですよ。でもこれも今見ると、二人のコントラストがすごく効いているのがわかるし、主演の田中絹代さんも素晴らしいんです。山本五十鈴さん、笠智衆さん、佐分利信さん、杉村春子さんなどなど、脇役の皆さんもいい芝居をしていて、こういう人たちと映画をつくれた小津さんはいい時代の監督さんだなと思います。今思うと、小津作品にもっと出たかったです。今だったらもっと小津さんを感心させるお芝居もできるのに!残念ですね。小津さんの作品をみていると日本のいい時代、いい家族のありかたを痛感させられます。礼儀正しくて、思いやりがあって、やさしくて、日本人ていい人たち、なんて思いますね。」

(小津安二郎DVDBOX発売記念イベントは、このあと淡島千景さん、岡田茉莉子さんのトークショーが予定されています。)

☆DVD-BOX「小津安二郎 第1集」は好評発売中!(第2集以下順次発売予定)

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