『東京物語』『晩春』など海外からも多くの注目を集めた日本を代表する映画監督・小津安次郎の生誕100周年を迎える今年は、さまざまなところで記念企画が予定されている。その世界的プロジェクトのひとつとして、小津監督を深く敬愛するホウ・シャオシェン監督によるオマージュ作品『珈琲時光(原題)』が製作されることが決定した。主演hくぁ、映画初出演となる一青窈。デビュー曲「もらい泣き」がロング大ヒットした彼女を、キャスティングのため来日していたホウ監督が一目見て、主演は彼女だと直感したという。また、ヒロインの相手役には、圧倒的な存在感で日本映画界を代表する俳優・浅野忠信がキャスティングされた。台湾・日本の混成スタッフと日本のキャストで、東京と北海道夕張を舞台にした物語になるという。

ホウ監督「日本人の生活を外国人の私がどう演出するか、この仕事はむずかしいけれど、楽しくやりがいのあるものになるでしょう。主演の2人には色んな可能性を感じています。慌ただしい生活の中のわずかなひと時、珈琲をのんで気持ちを落ち着けながら新たな明日への英気を養うような、タイトルはそういう意味です。小津作品はとてもスタイリッシュで、京劇を思わせるところがあります。どんな内容だろうと、抑制された印象を受けます。彼は戦後の日本の人々の価値観の変化というものをキチンと観察していた方だと思います。今の日本人は小津が描いた日本人とは、また別の価値観をもっています。僕の新作では、今の日本人がどういうアングルで物をみているかを、自分の目で確認してみたいと思います。小津作品の精神性を自分の目を通して考えてみたいと思っています。」

これにたいして、出演者の一青窈、浅野忠信はふたりとも小津作品を見たことがないそうだ。現代に生きる日本人を2人がどう演じるのか、楽しみなところである。製作は8月2日にクランクインし11月末には完成し、12月12日の小津の命日でもある誕生日にワールドプレミアを予定している。来年のカンヌ出品も視野に入れているとか。

(綿野かおり)