『運動靴と赤い金魚』(97)、『太陽は、ぼくの瞳』(99)で国際的に高い評価を得たイランのマジッド・マジディ監督の待望の新作がやってきた。前二作に続いて3度目のモントリオール映画祭グランプリ受賞という快挙を達成した本作は、限りなき無慣の愛の物語である。主人公は建築現場で働く17歳のイラン人の若者。彼は新たに雇われたアフガンから来た少年の重大な秘密——実は、長い髪の美しい少女だった!——を知ったその瞬間から、彼女の秘密を守るためにどんな犠牲をもいとわない守護天使となることを誓う。それは、触れることはおろか、じかに声をかけることさえない、ただそばにいたいだけなのである。その想いの純粋さ、強さ、そしてそこから発する彼の目の覚めるような自己犠牲による愛情表現は、観る者に忘れかけていた清冽な感動を与えずにはおかない。まさに、心の目で見る作品である。

マジッド・マジディ「出演しているアフガン人はすべて映画初出演の素人です。イラン人の出演者も主人公の少年とその親方を除いてみんな素人です。主人公が無償の愛をささげる少女バランは、撮影当時15歳だったけど、それまでの彼女の人生15年間はすべて難民キャンプでの生活でした。全く外の世界を知らない状況だったんです。この映画が成功したおかげで今は難民キャンプを出てイランの町で生活することが出来ています。」

彼女が演じたヒロイン・バランは、劇中でもほとんど彼女の台詞をきくことはない。監督いわく、バランという存在自体が今のアフガン人の状況を体現しているという。映画に出演したことによって、バラン役の少女が難民キャンプから出ることが出来たのは、大変よろこばしいことである。しかし、彼女だけではなく今もアフガンには大勢の難民が厳しい生活を強いられている状況は変わっていない。バランの裏側には多くの難民たちの姿があるのだ。

☆『少女の髪どめ』は渋谷シネマライズにて公開中!!

■作品紹介『少女の髪どめ』

(綿野かおり)