「日本におけるイタリア年」をきっかけに2001年よりスタートしたイタリア映画祭も、今年で早くも3回目を数える。1回目より2回目と数を重ねるに連れ観客数も増え続け、映画ファンにとってはすっかり初夏のお楽しみとして認知される映画祭の3回目となるイタリア映画祭2003では、「家族」をテーマとしながらも、それぞれに多様な作品性を持つ最新のイタリア映画11本が、GW期間に一挙に上映される。
 4月26日、本映画祭の主催でもあるイタリア文化会館にて、『母の微笑』の御披露目上映とイタリア映画祭2003来日代表団が登壇しての記者会見が開催された。今回の来日代表団は、『彼らの場合』のアレッサンドラ・ダラトーリ監督を団長に、『剥製師』の主演男優アレッサンドラ・ダラトーリ氏、この日上映された『母の微笑』のプロデューサーであるセルジオ・ペローネ氏という顔ぶれで、質疑が行われた。

イタリア映画祭2003来日代表団団長挨拶
アレッサンドラ・ダラトーリ(『彼らの場合』監督)——アリガトウ。これが私の知っている唯一の日本語です。今回イタリア映画祭を開催し、私たちを招聘してくださったことに、心から感謝します。人生で初めて、“団長”と呼ばれることに驚きと戸惑いを感じてますが、同時に最近再生を謳われて実力を発揮しているイタリア映画産業、そして監督を代表してここにいることを誇りにも思っています。
近年イタリア映画が危機的状態にあると云われて久しいのですが、最近それが盛り返してきました。それは監督の力というより、イタリアの観客の力といった方がいいかもしれません。ハリウッド映画志向の強かったイタリアの観客が、今はこぞってイタリア映画を観にきてくれるようになりました。それでは、イタリア映画はどう変わったのでしょうか?批評家をはじめ多くの方々は、イタリア映画=ネオレアリズモというように考えています。ネオリアリズモは敗戦後、荒廃の中から国を再構築したいという国民の気運の中から生まれたものと云っても過言ではありません。そこには新たな現実を切り取って、国民に叙述したいという欲望があったと思います。
しかし、現在は再建の願いや現実を切り取るには難しい時代になっています。それは現在イラク報道などからも判るように、TVが最も強烈なリアリズムの存在となってしまっているからです。そこでイタリア映画が何をしたかと云えば、勇気のある行動をおこしたのです。イタリア映画を通じて、テレビで伝えることが不可能なことを映画で見せるようになったのです。それは、社会の変化を伝えると云うよりも、人間の気持ち・意識・魂等をストーリーの中心に据えるという新たな切り口です。
そしてもう一つ、イタリア映画の作風・手法がひじょうに多岐にわたるものであり、そのそれぞれが人間の気持ちを中心に据え作っているのです。これこそが、イタリア映画の現実の姿であり、世界に訴求する最大の特徴にしていけると思います。ありがとうございました。

Q.『母の微笑』はイタリアでは興行的にも成功したそうですが、素晴らしくも普通の娯楽映画とは異なるタイプの作品ですね。本作が成功した要因は、どのような点にあると思いますか?
セルジオ・ペローネ(『母の微笑』プロデューサー)——まず最初に、イタリア映画祭の鬼才としてのマルコ・ベロッキオ監督の名前があります。彼が作る作品なら間違いないだろうと、その作品を楽しみにしているイタリアの観客が沢山いることが大きな要因であり、実際に期待を裏切らないものだったんです。私はベロッキオ監督の名声が、さらに高まることを望んでおります。個人的にも撮影前最初に脚本を読んだ時から、この作品がベロッキオ監督の代表作になるに違いないと確信しました。
また先ほどダラトーリ監督もおっしゃっていたように、イタリアの観客も変わってきており、これまでのようにただスペクタクルな映画を求めるのではなく、もっと深いものを求めるようになってきたこともあると思います。

Q.昨年の記者会見の時、ベルルスコーニ政権の下で表現の自由が危機に瀕しているというような話が出ましたが、それから1年経ったイタリアでの表現の自由に関しての現状をお話ください。
ダラトーリ監督——複雑な質問ですね。映画を政府の良し悪しで判断するのは難しい。歴史を振り返ってみても、ひじょうに悪い政府の時こそ素晴らしい映画が作られているという厳然たる事実があるからです。だから、政府は関係無いのではないでしょうか。幸い映画と政府にはあまり接点が無く、政府が悪くとも素晴らしい映画は作りうると私は確信しております。今、イタリア映画が昇り調子にあるのも、政府が何かをしてくれたからではなく、観客が変わったことが最大の理由だと思います。昨年は、ここ10年で初めて、興行成績トップ4位全てがイタリア映画という快挙になりました。
勿論、私は映画を興行成績等のみで判断する気は毛頭ありません。やはり映画は、質を中心に判断しなければならないと思います。興行成績がはかばかしくなかったものでも、高い評価を得た作品が多々ありました。それこそイタリア映画の多様性を物語っているものだと思います。

Q.日伊両国にはこれほど深い友好関係があるにも関わらず、両国での共同製作作品がほとんどありません。皆さんの中には、そうした企画・考えをお持ちの方はいらっしゃいませんか?
ペローネ プロデューサー——勿論私見なのですが、その考えは否定的なものではないと思います。ただそれには、具体的なプロジェクトが必要ですが、現段階では私にはありません。しかし私自身、今回の来日で日本の映画産業の様々な方とお会いして、話をする機会をつくることがもう一つの目的です。また、私のプロデュース作『ユーリ』も近日日本で公開予定です。私は市場としての日本のみならず、日本文化にも強い興味を抱いてますので、将来的に日本との共同製作が実現できればこれ以上の幸せはありません。
ダラトーリ監督——共同製作作品は是非私が監督させていただきたいと思いますので、宜しくお願いします(笑)。

質疑はイタリア代表団メンバーのみに留まらず、主催者サイドに向けて映画祭の今後や、作品選択の基準等に関しての問いかけもなされ、通常の商業サーキットに入らないものも含めた多様なものを選択していくという映画祭の姿勢には、会場から大きな拍手が贈られた。

なお、イタリア映画祭2003は4月27日〜29日、5月3日〜5日の六日間にわたり有楽町朝日ホールにて開催中。スケジュール等詳細は、下記公式頁を参照ください。
(宮田晴夫)

□公式頁
イタリア映画祭2003

□上映作品紹介
彼らの場合
母の微笑
剥製師
ぼくの瞳の光
無邪気な妖精たち
赤い月の夜
風の痛み
グラツィアの島
わたしの一番幸せな日
虎をめぐる冒険
復活