3月19日(水)から、赤坂・国際交流基金フォーラムにおいて「インド映画祭2003」が開催されている。約5年ぶりになるこのインド映画祭では、昨年のアカデミー外国語映画賞ノミネート作品『ラガーン クリケット風雲録』ほか新旧6作品が27日(木)まで上映される。
 21日には、トークショーが開催され、この『ラガーン』の助演女優であるスハーシニー・ムレーさんが登壇。急遽来日中止となったアーシュトーシュ・ゴーワーリーカル監督に代わって本作の裏話を披露した。
 銀のサリーを着たスハーシニーさんは、時折ジョークを交えながら、にこやかに『ラガーン』の製作過程を紹介。この『ラガーン』のゴーワーリーカル監督は、じつはヒット作を作れない監督との定評があったそうで、
「最初にこの企画を聞いたとき、アミール・カーン(後に主演とプロデュースを快諾)は、バカな企画はやめてちゃんと見られるものを書くようにアドバイスしたそうです。でも、ゴーワーリーカル監督には、この素材は映画にしうるものだという実感があったんだと思います。実際、4年間かけて脚本を練り直してから、またアーミル・カーンに持ちかけました」と。その4年の歳月のおかげで、『ラガーン』は、ボリウッド映画には珍しくクランクイン前に製本された脚本が出来上がり、俳優陣は読み合わせをすることができたという。そして、これもインドでは珍しいことに同時録音で撮影されたそうだ。
 この映画が本国で大ヒットした理由をどう考えているかというと
「理由はひじょうに簡単。まず第一に、インドで国民的ないちばん愛好しているスポーツはクリケットです。人々にとって『ラガーン』に出てくるクリケットの試合は、ありえないような素晴らしいプレイが続出する夢の試合です。もうひとつの理由としては、強烈な力を持っている相手に対して戦うために力を合わせていく物語だということ。そういったことは世界中どこに行っても魅力的な物語になるのではないかと思います。脚本自体がひじょうにいい出来であることも、考えられる理由のひとつでしょう。本当に素晴らしい出来です」と分析されたが、「私はクリケットは嫌い。(子供のころに)男の子たちは仲間に入れてくれなかった」と茶目っ気たっぷりに告白する一幕も。
 そのクリケットのシーンのエピソードだが、イギリスチームを演じた俳優陣は、実際のクリケット選手でしかもかなりのハイレベル。インド人チームのメンバーの中にはクリケット初体験の人もいたそうで、イギリス人チームはエラーの演技をするところでうっかりボールをキャッチしてしまって苦労することもあったそうだ。
 そんなふうに、笑わせながらさまざまなエピソードや見解を述べてくれたスハーシニーさんだが、1969年にムリナール・セーン監督の芸術映画「ソーム旦那の話」のヒロインとして女優デビューした後、70年代前半のカナダ留学を経て、ドキュメンタリー映画の監督をするようになった、という異色の経歴の持ち主。その作品は、世界各地の映画祭で上映されている。縁があって5.6年くらい前から、女優業を再開し映画だけではなくテレビドラマにも出演するようになった。
「いまは、デリーからボンベイに移って、女優業をしながらドキュメンタリーも続けています。なんとか両立させていきたいと考えています。あえて告白しますと、カメラの前に出るよりも作る作業のほうがはるかに面白いですね」とのこと。
 客席からドキュメンタリーのテーマについて問われると、
「追い続けているテーマは、まず、大人のための識字教育。現在のインドでの識字率は36〜37パーセントくらいですので、この問題についての重要性を訴え続けています。あとは、環境問題。もうひとつ、女性の権利、女性に関わる諸問題を取り上げ続けています。今、関心を持っているのは、多国籍企業が遺伝子そのものの特許を持っていること、それにまつわる動きについてひじょうに心配しています。あとは核武装をひじょうに問題視しています。インド・パキスタンの状況についてはご存知の通りですけども、これから世界各国の皆さんがこの問題について本格的に取り組むべきだと思っています。まったく正気の沙汰ではないことです」と雄弁に語っていた。
 なお、『ラガーン クリケット風雲録』は、3月26日にビデオとDVDがリリースされる。
(みくに杏子)

関連サイト:国際交流基金アジアセンターHP