『ナビィの恋』から4年ぶりの中江裕司監督の新作は、沖縄にある、小さなちいさなホテル・ハイビスカスを営む一家を、天真爛漫で破天荒な小学生・美恵子を中心に描き、見ていて活力が沸いてくるハッピーな作品『ホテル・ハイビスカス』だ。昨年の東京国際映画祭には、コンペ部門に正式出品され見事審査員特別賞を受賞し、今年になってからはベルリン国際映画祭にも公式出品され、好評を博した話題作だ。
 3月5日、本作の完成披露試写会がヤマハホールにて開催され、上映前には中江監督が舞台に登壇した。沖縄好きの中江監督は、この日もアロハシャツで登場すると、ウチナーグチ(沖縄言葉)で挨拶。続いて、この作品は二つの出会いから生まれた作品だと、幸福な出会いについて語りだした。
 「一つは原作のマンガ『ホテル・ハイビスカス』との出逢いです。15年ほど前、沖縄でローカルなマンガ雑誌の編集をしてた頃に仲宗根みいこさんの原作を読み、是非自分の雑誌に書いて欲しいと連絡をとりお会いした。その時は時間の都合で実現しませんでしたが、僕の中にはそれ以来ずっと『ホテル・ハイビスカス』というのがあり、『ナビィの恋』を撮った後沖縄での上映中に東京のプロデューサーが、たまたま劇場の近くで原作を見つけたプロデューサーから、「これどうだ?」と言われ、是非やりたいと答えたのがスタートでした。
 もう一つは、主演の蔵下穂波との出会いです。彼女はオーディションに来たのですが、他の子と全然演技の質が違いまして、一切演技を上手にしようとはしないんです。それだけじゃなく、演技をしようとしてないんです。彼女が演技をする時の基準は、自分と登場人物をただ重ね合わせているだけなんです。登場人物の気持ちになりきって、やっているのです。最後に4人くらい残った子に、どうしてこの映画をやりたいのかと聞いたところ、映画に出たいとか、有名になりたいとか、映画をいいものにしたいとか答える中、彼女だけは美恵子になりたいからと答えたんです。その時、彼女はもう美恵子だったんです。最初から、そんな風に思っていたんだと思います。それで、撮影に入ってからも、演技でこういうつもりでやりなさいってことは、一切通用しないのです。彼女はなりきろうとしていて、僕やスタッフにできることは、映画は全て本物だから全部本当にやらなければならないということを、ずっと言ってました。この映画の中で、美恵子がお母さんに会えないというシーンが訪れるのですが、その頃彼女自身も実際のお母さんに会わないで撮影をしていて、美恵子と自分の気持ちを一致させていたんです。ただ、彼女は泣くシーンだけは気になったようで、涙なんか出せないと言っていたんですが、映画は全部本当だから本当に美恵子の気持ちになったら泣けるはずだよ、美恵子の気持ちでやってくださいと言って、それがどうなったかは作品を見てもらえればわかりますが、本当に彼女はずっとみえこの気持ちでいて、撮影現場は彼女を中心に回っていたなと、今考えても思うところです。
 そんな姿を観ていただきながら、スタッフのみならず、沖縄の太陽や風土なども彼女を助け作らせてくれたと思っています。最後まで笑いながら観ていただければと思います」(中江)。
 そう、あの自然体でパワフルな恵美子の姿は、計算された演技なんぞで現せるもんじゃない。是非とも、皆さんにも劇場でフィルムの中で生き生きと存在感を見せつける恵美子の姿と、彼女たちを包む沖縄の風土を堪能してもらいたいと思う。なお、『ホテル・ハイビスカス』は2003年初夏よりシネマライズほかロードショー公開
にてロードショー!
(宮田晴夫)

□作品紹介
ホテル・ハイビスカス