日・韓・中の気鋭の3監督が、9.11後の世界を描くDV撮りの短編連作集<AFTER WAR>。韓国女優を広島によび映画を撮ろうとするまでを描く諏訪敦彦監督、キム・ホジョン主演の『広島からの手紙』、株式捜査の主犯の容疑をかけられた男が、逃げ込んだサバイバル・ゲームの渦中で恐怖を味わう姿を描いたムン・スンウク監督の『サバイバル・ゲーム』、アメリカ在住の娘と癌にかかった父との再会を描くワン・シャオ・シャイ監督の『ニューイヤー』と多様な3作品が、それぞれの戦後観を観客に訴えかけてくる。
 前日に続き舞台に立ったムン・スンウク監督とキム・ホジョンは、映画祭、プロモーションでの来日は二度目だが、『バタフライ』『広島からの手紙』で日本でのロケも経験済みだ。撮影当時を振り返って、ホジョン監督は、記憶を喪失した街という観点で選んだ神戸に、フリッツ・ラングの『メトロポリス』の世界を連想したことを、また本日の上映作で1週間ほど広島に滞在したホジョンは、「これまで広島に関しては断片的なことしか知らなかったのですが、実際に広島の街で撮影し、しかも作られたキャラではなくキム・ホジョン本人として旅をするというもので、私の中に大切なものとして残っています」とそれぞれ思い出も披露した。

Q.『広島からの手紙』の諏訪監督とキム・ホジョンさんが出会われた経緯と、また撮影はどのような形で進められたあのでしょうか?また、この作品は全州国際映画祭での公式プロジェクトとして、9.11以後の世界を描くという意図で撮られたそうですが、韓国と日本では広島に関する認識の違い等はいかがですか?
キム・ホジョン——諏訪監督とは2年前のロカルノ映画祭で『バタフライ』の上映時にはじめて出会いました。その後、監督が韓国にいらした時に色々話をする機会があって、その後一緒に仕事をしたいという手紙をいただいたのですが、それはとても謙虚で真実が伝わってくる手紙でした。それが今回の仕事に繋がったのです。シナリオは私と監督が知り合い、一緒に仕事をするということで日本に来るが監督は現れないという3行だけのものでした。そして実際に撮影に入ったのですが、監督が大きな状況を作りその中で旅する私が感じたことを演技していくということで、常に監督との対話で作って行きました。監督自身も、この映画がどういう結論に辿り着くのか自分自身も知りたいとおっしゃってましたが、出来上がった映画を観て自分自身もその言葉の意味がわかった気がします。
全州国際映画祭で作品を観た韓国の観客も、多分自分の切実な経験とは受け取らなかったでしょう。この映画に出演する前の私もそうだったように、マスコミ等から得る断片的な知識としては知っていたでしょうが、今回の出演で直接広島を訪ね現状を見、体験を聞くことでようやく自分も個人の問題と感じることができるようになったのです。直接体験しなければ個人のものとして考えられないというのは、勿論韓国人のみに限ったことではなく、日本の皆さんであっても同様でしょう。そういう点では同じですが、あえてそこに違いを見出すとすれば、私は韓国人のキム・ホジョンとして感じましたし、日本の方には違うところがあるのかもしれませんね。

Q.『サバイバル・ゲーム』の主人公のキャラクターが、興奮すると見境を無くすあたりが、外国人から見たいかにも韓国男性らしかったのですが、それは韓国的なものを意識されて撮られたのでしょうか?また、焼き肉屋での掴み合いの場面で撮影クルーが場面に映りこんでいますが、その意図は?
ムン・スンウク監督——私はポーランドで8年間映画の勉強をして30代の前半に韓国に帰ってきまして、この作品を撮った現在は30代半ばですが、そういう私達の世代、よく3・8・6世代と呼ばれますが、社会の激変期に学生時代を過ごした世代を自分で観察してみますと、生存への強迫観念があると感じたのです。そしてそれが、ある瞬間に暴力的に出てくることがあるように思いました。それは自分たちが学生運動などに参加していた頃の理想と、現在社会の中堅になりながらそこに出てくるギャップというものいがあるのかもしれません。そうした暴力性のメタファーとして、今回サバイバル・ゲームを用いました。日本人から見た韓国人イメージとのことですが、私としてはこれは韓国人固有のものではなく、近代化が孕んでいる暗い面から出てきたものだと捉えています。
クルーの映りこみは、元々意図したものではありませんでしたが、撮影中に様々な状況が起きますが、ハプニングも含めそうしたことを織り込みたいと思ったのです。撮影中には複数のカメラが回っていたので映り込んでしまったのですが、私はそこで撮影を中断せずに全ての状況をカメラに収めたいと直感的に思ったのです。先ほど強迫観念に関して話しましたが、撮影をしている我々スタッフの強迫観念を含め全てをの状況を盛り込みたいと思ったのです。これはデジタルカメラという新しい手法をとるにあたって、そうした直感的な部分を盛り込みたいと思ったのです。

なお、辛・韓国映画祭2003は2月14日までテアトル池袋にて激辛開催中!『AFTER WAR』の上映スケジュールは下記、公式頁を参照のこと。
(宮田晴夫)

□作品紹介
AFTER WAR

□公式頁
テアトル池袋