レイバンのサングラスをかけ、ベトナムに思いをはせるタクシー運転手…と言っても、大統領候補を狙ったり少女娼婦のヒモを撃ち殺すわけじゃない。娘の学費が払えず娘から養子に出ると宣言されたり、清楚なマッサージ嬢への想いをよせながらも金持ちの爺に掻っ攫われたり、妻子、両親のみならず出来の悪い兄の面倒まで見させられ、周囲からケチと噂されながらチマチマ貯金にいそしんだりと、なんとも情けなくはあるけれども、それでもバカ話で雑事を笑い飛ばしながら、バイタリティいっぱいに生きる3人のタクシー運転手を主人公にした、ペーソス溢れるコメディが『ライバン』だ。
 一昨年のコリアン・シネマ・ウィークでの上映に続き、辛・韓国映画祭2003の上映作品としてお目見えした本作、2月2日の上映時には、チャン・ヒョンス監督を筆頭に、大学出で見栄坊のジュニョン役のチョ・ジュニョン、叔父のベトナムでの自慢話を繰り返すハンナク役のチェ・ハンナク、そしてちょっとずれてるけど気のいい若い整備員スンジン役のイ・スンジンが来日し舞台に立った。上映前にはこの映画祭で上映されることの喜びを一言づつ挨拶。また、作品上映後にはティーチ・インが行われた。場内を見回したヒョンス監督は、幅広い世代の客層が映画を観に来ている日本は、製作者として実に羨ましいとコメント。韓国本国では、映画観客の9割は二十歳過ぎくらいが締めているので、この作品を撮ることは興行的にはかなりチャレンジングな試みだったのだ。

Q.主要な登場人物が、役名と俳優さんの名前が一緒ですが、その事情をお聞かせください。
チャン・ヒョンス監督——タクシーの運転手を演じた3人は、十年来一緒に仕事をしてきた仲間で、スンジンさんは若くこの作品がデビュー作となります。今回の映画の主役はタクシーの運転手ですが、韓国の場合と日本の場合とでは多分タクシーの運転手の立場が異なるでしょう。韓国では、タクシーの運転手は技術がなくともできる繋ぎの仕事で、お金のためのアルバイトでやっているという認識。実際それだけでは生活していくにも難しいような感じです。今回の3人は、そんなタクシーの運転手にあうだろうというのが頭にあり、それでこの企画を進めました。監督としても、役者には日頃の地を出して演じて欲しいと思い、彼らもそれを望んだので、自分の名前で役をすることになりました。

Q.監督に。韓国でも観客の年齢層が若いということですが、中年に差し掛かった男達のドラマは興行的には狙いにくいかと思われますが、それでもあえてこの題材を選んだのは何故でしょう。また、役者さんたちは、タクシー運転手のしがなさなどを演じるにあたり、どのような演技プランを持ったのでしょうか?
ヒョンス監督——確かに現在の韓国では、タクシーの運転手を温かく受け入れる風土ではないですし、二十歳過ぎの方が興味を持つ題材でもないので、興行的には難しいテーマでした。この作品を映画化した時期は、IMF危機の後で韓国が経済的にも困難で、拝金主義的な風潮が高まっている時期でした。それに対して、世の中はお金だけじゃないということを描きたいというのがありました。ということで私達は始めから大きな勇気を持ってこの作品を作りましたが、予想されたように韓国でも興行的には厳しかったです。でも、今の段階では私は満足しております。
チョ・ジュニョン(ジュニョン役)——タクシーの運転手という点では、ハンナクさんが一番ピッタリのタイプだよね(笑)。私は大学を出てから20年、演劇畑でやってきましたが、韓国で役者としてやっていくことは一握りのスターを除くと大変なことで、自分も40近くになりながらまだ結婚もしていません。そんな自分に対しての憤懣というのもあるわけですが、今回の映画の中のジュニョンと自分を比較してみると、望んでタクシー運転手をしているわけではないジュニョンに対し、私はやりたいことをやっているという点では幸福なことだと思いました。そういうキャラクターの差も含めて、自分の中から滲み出すものをこの映画で表現しようと思ったのです。
チェ・ハンナク(ハンナク役)——私が一番ピッタリだったかどうかは置いておくとして、今回の演技で一番のポイントに考えたのは、タクシーの運転手というのはたんに職業にしか過ぎず、精一杯自分は幸福だと思って生きている人間であるということです。何か新しいものを付け加えて、タクシーの運転手だとするのではなく、自分の地を自然に出して演技をしました。子供がいて、シンプルな人間であるという、そのキャラクターに重点を置いて演じました。
イ・スンジン(スンジン役)——私にとってこの作品は、演劇科の大学を出てから、初めて出演したデビュー作です。私は今後も俳優として活躍していくと思いますが、この作品でデビューしたことを決して後悔しません。私の周りにも、この映画が興行的に当ると思ったものは一人もいませんでしたが、映画にとって興行が全てではないと考えますし、この作品は時代の中で物語っていかなくてはならない話だと考えていますので、決して後悔はしてません。

Q.ベトナムのことが出てきましたが、アジアで唯一ベトナム戦争に参戦したということの特別な意識があるのでしょうか?
ヒョンス監督——確かにベトナムに関して、そのように考えることは可能だと思います。ただ私がこの映画を作ったことに関して言えば、特にそういった意識はなくて、例えば経済的・文化的な進み方で、進んでいる方から日本、韓国、ベトナムと並べることができると思います。主人公のドライバーたちは、生活が苦しいのならば、日本やアメリカなど、より進んだ国に行けばいいところをベトナムに行った。そこにこの作品のテーマを見ることは可能です。映画の冒頭で幸福や不幸は我々を選ぶことができるが、我々が幸福や不幸を選ぶことはできないというナレーションが流れますが、私はだったらこちらから、幸福や不幸をこちらから選択してやろうじゃないか、そしてベトナムに行き、自分たちの手で幸福と不幸を選択していくというテーマがあったのではないかと思います。

なお、辛・韓国映画祭2003は2月14日までテアトル池袋にて激辛開催中!『ライバン』の上映スケジュールは下記、公式頁を参照のこと。また、2月8日10時の回、2月9日16時の回には、ムン・スンウク監督、女優チョ・ジュニュンによる舞台挨拶&ティーチ・インが開催予定だ。
(宮田晴夫)

□作品紹介
ライバン

□公式頁
テアトル池袋