ある朝、工場閉鎖によって職を失った男。一人町を歩きはじめた男が、その行く先で出会う様々な予期せぬ出来事。SABUの監督6作目となる『幸福の鐘』は、ちょっとこれまでとは異色のトーンで描かれている。寺島進演じる主人公は、ビールのCMじゃないけれど、ただ黙々と歩き続け、トレード・マーク的な“走り”も台詞も、ラスト直前まで出てこない。でも、とぼけたユーモアを交えつつ、描かれるキャラクター達の姿は、紛れも無いSABUワールド。撮影の美しさ、場面設計の綿密さも強い印象を残す。
 第3回東京フィルメックス最終日の上映には、SABU監督と寺島進がゲストで登場。寺島の登場に場内の女性客から嬌声が上がると、「世界から、偉い映画人が来てるんだから、俺の時にもキャー!って言えよ」と、笑わせるSABU監督。また寺島は、本作の話を最初に聞いたのが、昨年観客としてきていたフィルメックスでの上映時だったことや、撮影現場のいい感じのムードなどを交えて挨拶。また、本作の美しい撮影を担当した中堀正夫撮影監督も来場しており、観客に紹介された。以下、ティーチ・インの模様をお伝えしよう。

Q.SABU監督は、今回の作品のアイデアを、いつ頃思いつき、どのくらいの期間温めていましたか?
SABU監督——『DRIVE ドライヴ』の編集中に、そちらでサービスし過ぎたことをちょっと反省してまして、渋いのをやりたいなと考えてまして、『DRIVE ドライヴ』でも寺島さんが素晴らしかったので、寺島さんで静かなものを…と考えたらすぐ出来ました。

Q.寺島さんは、今回ずっと喋らないキャラクターを演じたわけですが、他の作品に比べ演じる上でいかがでしたか?
寺島進——大体口下手なんで、こういう寡黙な役をすごく望んでましたね。それで『DRIVE ドライヴ』でSABU監督と色々ジョイントしましたが、監督の日常を垣間見ると言うか、振り返る部分が非常に勉強になるんです。脚本が凄かったので、それに応えたい一心でやらさせてもらいましたし、中堀さんはじめ素晴らしいスタッフに恵まれて、いい現場の空気でとてもありがたかったです。

Q.SABU監督はこれまでの作品で走り続ける印象が強かったのですが、今回は寺島さんでずーっと歩かせ続けながらも、最後の最後でやはり走らせましたね。それはどうしてでしょうか?
SABU監督——まぁ、陽が沈みそうだったんで…てわけじゃないですけど(笑)。台本にも走るってことになってましたけど、そういう感じっすかね。なんか朝からかけて帰って、夕方ちょっと慌てちゃったりしてみたいな(笑)。

Q.ほとんど台詞の無い役ですが、寺島さんはどのような気持ちで演じられましたか?またSABU監督は、どう演じて欲しいと思われたのでしょうか
寺島——まず台本ありきなので、台本を読んだ感覚でイマジネーションしてるというのが一つと、監督の演出とその日の現場の環境や雰囲気を味方にして、自然にジョイントするように感じてました。
SABU監督——そのままでいいというか、芝居的にはあまりすんなり受けて欲しくないというのはありました。まず最初に脚本があるんで、結果はわかってしまうんで、それに向かって行くと変な説明になったりする。他の映画でもよくあるんですが、善の役で出ていて最終的に裏切る役だと、善の場面が大層な芝居になってて、急に裏切るとすごい顔つくってみたりとかね。寺島さんは、そういう点ではすごく信用できるので、最初から台本通りにやっていただきましたけど、できたら結果を知らずに香港みたいにその日の分だけ脚本を渡してっていうのも、役者さんとしては楽しいのかなという気はします。

 なお、『幸福の鐘』は2003年、渋谷シネ・アミューズ他にてロードショー公開予定!
(宮田晴夫)

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