ベネチア国際映画祭新設部門のコントロコレンテ部門で審査員特別大賞を受賞したという大ニュースで日本を騒がせた張本人、塚本晋也監督作品『六月の蛇』が東京フィルメックスにお目見え。常に新しいものを追い求める監督の志向は変わらず、今回も様々なスクリーンサイズをクランクイン3日前まで実験したり、ボランティアを大募集してスタッフ・キャスト総勢230名がボランティアとして撮影に参加した。また、独特な青いトーンのモノクロ映像(アシディック・ブラック&ホワイトと名づけられた。)は、作品を通して降りつづける6月の雨のむしむしとしたイメージをより強く甦らせている。
 塚本監督と主演の黒沢あすかが舞台挨拶に、監督は上映後のティーチ・インにも登場した。
 

塚本晋也監督——ベネチアでは観客に最後まで観てもらっただけでなく今までで一番いい、熱い反応をいただいて嬉しかったです。官能ポルノかと思うような勇気のいる脚本を黒沢さんがやるっていってくださった時点でこの映画は出来たんだっていえます。

黒沢あすかさん(りん子役)——現場は大変でしたが、監督は撮影に入る前には必ず話し合いの場を持ってくださり、私のいうことや疑問点耳を貸してくださいました。それで私と監督の意見が合えば、これで行きましょう!って言ってくださいました。この方を信じていけばいいんだって思ってやりました。

Q:女性の描き方について。
塚本監督——男の子映画ばっかり作ってるって言われますけどね。次に生まれるとしたら女性に生まれて、翻弄されて喘いだりよがったり・・苦しみたいかもしれないです。女性に嫉妬してるから他の作品に女性を出さないのかも。めちゃくちゃにして、でもそれを見るのも悔しい。むしろ自分が女性的な気分で、犯されたりとかしてるのはいつも描いてるんですが、頼みづらいんです。男にはなんとでも言えますけど。女性に嫉妬するのが面倒くさくなって、今回はもう役を譲ったという感じですね。

Q:二人の男が一人の女を取り合うという話が多い気がしますが・・?
塚本監督——いつも違う話を考えようと思って書きはじめるんですけど、「よし、これはいい!きたきたっ!」と思って書き終えるとやっぱりおなじような感じになっちゃう。好きなんでしょうね、結局。今作は『鉄男』を作る10年前から考えていたことなんですがいろんなデザインをかじった上で一番最初にやりたかったこと、「都市と肉体」のテーマそれそのものを一番見つめた一番シンプルで本来いつもやってるお話を一発やってやろうって思ったんです。

Q:明るくユーモラスな人柄の監督が、どうして毎回バイオレントな過激な作品を撮れるのでしょう?
塚本監督 ——普段は頭の中はぼーっとしていて穏やかな日常を妄想だけして送ってます。映画を作ったり脚本を書いたりするのはよっぽど自分の中に何かがないと出来ない。だから自分の中でベルを鳴らすんです。日常生活のわびさびみたいなことはそのベルが強すぎるんで描けない。日本が戦争のないことに甘んじてぼーっとしてることへの危機感があって、映画を作るときだけは鉄槌を掲げて、それを覚醒させたいっていう思いがあるんです。

次から次へと質問が矢のように飛び交う会場は、塚本ワールドに酔った観客たちの熱気と高揚感に包まれていた。観客と気さくにやりとりを交わす、そんな監督から生まれる、妄想とエロスの狂信的映像世界を堪能した。
(Yuko Ozawa)

『六月の蛇』は2003年春、渋谷シネ・アミューズにて公開ロードショー。

□作品紹介
『六月の蛇』