美術館で見るために生まれてきた映画『さゞなみ』。 初映画スコア製作となった岸谷香は、自信のこれまでの音楽性とのせめぎあいの中での仕事となったようだ。
 結婚・出産。女としての転機に、「元プリンセス・プリンセス」の岸谷香は、長尾直樹監督「さゞなみ」の映画音楽製作に挑戦することで、夫である岸谷五郎と同じ舞台に立つことになった。
前作「鉄塔武蔵野線」で文化庁優秀作品賞を受賞した長尾監督とは、プリ・プリ時代にプロモーションビデオ等を作ったことからの縁。作品では母と娘のふれあいを山形・和歌山の美しい風景の中に繊細に描き出し、その映像の静謐な美しさゆえに、東京都写真美術館ホールでの「写真美術館で観る映画シリーズVol.1」として公開された。
 東京都写真美術館ホールで行われた長尾監督とのトークショーで、今までの音楽性と映画音楽との違いに試行錯誤したエピソードなどを語った。

長尾監督——初めはCMの仕事を頼みました。
岸谷香——ピアノのインストです。だいたいのお題をもらって即興でやりました。長尾さんとはCMを何本かやりましたね。

長尾監督——映画音楽とCM音楽の仕事は何か変わりますか?
岸谷香 ——CMの時までは長尾さんとの仕事はやりやすかったんですが今回は映画で、初めて「わかんないなー。」って。それで、出来上がって初めて「あぁなるほど。」と。何回も打ち合わせをしていろいろな音楽に対する考え方を話して、最後は「こういうのはありがちだけどわたしがやるとちょっと..」というところで落ち着いて..。今までは「That’s奥井香!」っていうメロディで仕事をしてきたのでそのやり方を否定されたのは今回が初めてで、非常にそこが難しかった。「これがいいな」と私が思っていたものが長尾さんと最初から違ったんですね。「曲が説明しすぎ。そうじゃなくて情熱だよ。」ってよく言われてました。「ピアノだけじゃん。」って思われる気がしていて、試写会の時になってやっと「なるほどね、やって良かったな。」って思えました。

長尾監督——「映画音楽 岸谷香」と出ることについて、抵抗は?
岸谷香——こういう仕事ができたことは誇らしいことです。音楽の可能性を狭めてしまうことは簡単だけど、こういう意外な組み合わせのきっかけをもらったことに感謝しています。インストとポップスとの間に壁はなかったです。もともとやってた音楽はYMOだったりして、必ずしも音楽=歌・歌手という印象はないので。

長尾監督——今後の展望は?
岸谷香 ——音楽ってどこでチャンスがあるのかってわからない。自分の歌だけを歌っていくこともできるけど、今回すごい楽しかったし、過去に舞台のスコアをやったけど何かと音楽が一つになるのってすごく楽しいから、次のチャンスがあればやりたいです。

『さゞなみ』は恵比寿ガーデンプレイス内 東京都写真美術館ホールにて公開中。

(Yuko Ozawa)

さゞなみ