昨日上映の『蛇イチゴ』に引き続き、東京フィルメックス2002で上映された是枝裕和プロデュース作品『カクト』。監督を務めたのは、『ディスタンス』・『ワンダフルライフ』での独特な空気感を漂わせながらのごく自然体の演技が記憶に新しい、あの伊勢谷友介である。モデル、俳優、また東京芸術大学美術学部を卒業し、大学院美術研究科終了とその多彩な才能には驚くばかりであるが、自身が共同脚本・監督・主演を務めた本作『カクト』では、ひとくせのある登場人物たちに囲まれた一夜の出来事が、3人の男たち(伊勢谷・高野八誠・伊藤淳史)のノリと勢いに乗せてテンポ良く疾走し、観客を巻き込んでいった。コミカルなヤクザのドンを演じた寺島進や熱帯魚家の店員をマドンナ的に魅せた桃生亜希子など、小気味よいアクセントをつける手腕も見られた。
マルチな才能をまた新しい表現の舞台へと広げた伊勢谷友介。あくまで軽やかなその一歩だが、今後の日本映画に新風を吹き入れるだろう、そんな存在感を今作で刻んでいる。

伊勢谷友介さん(主演 リョウ役・監督・脚本)——「良く分からないようなタイトルやポスターの絵だったりするんですけど、中身は簡単な映画なので楽しんで観ていただけると思います。後でタイトルの意味をチラシででも見てもらえればと思います。」

高野八誠さん(マコト役)——「すごく楽しかったです。伊勢谷君も監督と役者の両方をしていて、途中から役者をやり始めたらスイッチが入って、監督もしてたのに大変そうでした。その中でも一生懸命がんばっていたのでよかったなと思います。」

伊藤淳史さん(ナオシ役)——「伊勢谷君とは幼なじみの役だったんですが、監督であり役者であったのに友達みたいな感覚でした。あまり監督としてどんなことをしているのか分からなかったんです。でも最後に一つの映画になった時、「伊勢谷監督すごいな」って思いました。」

Q:タイトル『カクト』(「覚人」、「覚都」)について。
伊勢谷監督——僕が作った言葉です。それぞれの人が、ショックがあってから、色々なことに気付いて、ちょっとずつ人間として成長していく、という意味があります。簡単な映画に難しいタイトルをつけて、そのギャップを狙ったというところがあります。

Q:『ディスタンス』や『ワンダフルライフ』で俳優として起用した伊勢谷監督を、第一弾プロデュース作品にしたいきさつは?
是枝プロデューサー——まず、すごくたくさんのお客さんに来ていただいてありがとうございます。一杯に埋まっている作品を前から見るのはすごく気持ちがいいものなんです。
 伊勢谷君と会ったのはオーディションの時です。帰りがけに伊勢谷君がエレベーターの中で、「監督志望なので、このオーディションに落ちても、現場に見学に行ってもいいですか?」と言ったのがすごく印象的でした。なので、台本にない“伊勢谷友介”という役を作ったんです。それが最初の出会いです。その後も短編や脚本を見せてもらったりして、この5年間彼が何を作っているのか?気になる存在でした。
脚本を見たとき、「彼の映像を見てみたい」、そんな単純な気持ちで、何か協力できればと思ってプロデューサーになることにしました。伊勢谷君は、今作を「簡単な映画」といってますが、説教臭くないところがいいなと思って、自分には撮れない映画で、そこがいいなと。

Q:スタッフなどからのアドバイスは、受け入れるタイプですか?それとも自分の意見を押し通しますか?
伊勢谷監督 ——たくさん意見をもらいましたし、たくさん受け入れました。僕だけ見る映画を作るなら押し通せばいいと思いますが、やはりスタッフからもらう意見は全然違う視点から見ていて、それを取り入れるとまた違う味になるのだなと思いました。

「あくまで「楽しい」映画なので、みんなに見て欲しい。」(伊勢谷監督)ひょうひょうとしつつも、監督として貪欲な熱意が垣間見えた。

なお、『カクト』は2002年春より渋谷シネアミューズほかにて公開予定。

(Yuko Ozawa)

□公式頁
東京フィルメックス
□作品紹介
カクト