兄であるオキサイドとのスタイリッシュな共同監督作品や、香港ニュー・ウェーヴ系作品の編集で知られるダニー・パンが単独監督デビューを飾った『ギリギリの二人』。たまたま同じ場所、同じ時に自殺をしようとした男女が、失うものなど何も無いと、思いのまま犯罪に走っていく犯罪ドラマ。トリッキーな編集や凝った場面処理、そして暗いホテルの室内を照らす原色の照明をはじめとする美しい色使いと、これまでの共同監督作品を思わせる特徴を散りばめつつ、野郎には妙にリアルで可笑しい主人公オークのぼやきや、勘違い刑事などコミカルな要素が作品を弾ませている。12月4日の上映後、ダニー・パン監督によるティーチ・インが行われた。

Q.タイとシンガポールの共同製作であり、監督は香港の方ということで、スタッフ構成は?
——今回のスタッフは、これまでのタイで撮った作品もそうでしたが、私を除けば全員タイの方です。ただ出演者の中で、主人公オークとその姉を演じた俳優はシンガポールの俳優です。

Q.色使いがとても印象的でしたが、意識して打ち合わせ等されているのでしょうか?
——これまでの作品でもそうですが、私はまずかける音楽とアクションのリズムを先に考えておいて、そこから画面構成を考えます。今回もその流れで打ち合わせを行いました。

Q.シンガポールとタイの合作になった経緯を教えてください。また、シンガポールの役者さんたちは、タイ語の方はいかがでしたか?
——率直に言えば製作費の絡みです。今回製作費の45%をシンガポール側が出資していますから、シンガポールの俳優の起用をということのなりました。また、映画のマーケットがタイ国内に留まらないアジア的な映画というイメージを目指したということもあります。言葉に関してはシンガポールの俳優とは英語でコミュニケーションを取りましたから問題ありません。ただし台詞に関しては、二人には完全な外国語ですから、丸暗記してもらいました。

Q.主演の二人を採用した経緯を教えてください。
——私は通常脚本を仕上げてから、役に合わせてキャスティングをしていきますが、何人かの役者と実際に会って彼らが普段の生活においてどういう人間であるかという雰囲気を重視し、何度か会っているうちにこの二人に決まりました。非常に満足しています。

Q.タイ人の描かれ方がちょっとステレオ・タイプ的でしたが、タイの方の反応はいかがですか。また、シンガポールの出資があるとのことですが、こういったタイプのアクション映画はカットされずに公開できるのでしょうか?
——シンガポールでの上映に関してですが、確かに激しいヴァイオレンス描写もあるのでシンガポールのプロデューサーともかなり打合せをしましたが、プロデューサー側の方から、考えすぎて作れなくなってしまうよりも、取りあえず作ってしまおうと言ってくれたのです。彼とは以前も組んでいて、リスクはあっても私を全面的にサポートしてくれました。前の作品も、シンガポールではかなり成功しましたしね。公開は来年の3月の予定です。
タイの方は特に違和感は持たれなかったようですよ。この物語はタイで実際に起きた事件をベースにしたもので、身近なことと実感してくれたようです。それと私はこれまでも何本かタイで映画を撮ってきてますので、タイの方の意識では香港の監督というよりタイの監督という意識が強いようですね。

Q.『レイン』や『THE EYE アイ』等パン兄弟の作品はスタイリッシュな映像や物語が印象的でしたが、この作品はそうした中にペーソスのような笑いの要素が散りばめられていたように思いますが、ダニー監督個人としてはコメディ的なことをやりたいというようなことがあるのでしょうか?
——おっしゃるとおり、今回は脚本の段階からコメディ的な要素を入れようと思っていたのです。前の『レイン』はやや重いと言うか、聞いた話では多くの方が泣きながら映画館を出て行ったそうなので、泣くのは1回だけで充分だろうと(笑)。また私のポリシーとして、作品を作るたびに新しいことに挑戦していこうという風に思ってますので、コメディの要素をいれようと思ったわけです。

Q.今回はダニー監督の単独作品ですが、製作するにあたってオキサイドさんと話したりはあったのでしょうか?
——私たちは仕事のことでしたら、いつでも、何でも話し合える関係にありますから、今回も脚本の段階から様々なアドバイスを受けました。そもそも、この元になった事件を教えてくれたのは兄でして、それで書いてみようかと思ったのです。

なお、『ギリギリの二人』は、12月7日(土)21時30分よりシネ・ラ・セットでも上映される。
(宮田晴夫)

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