初の長編作品『生きる』で第3回フィメックス コンペ部門に参加したレザ・ソブハニ監督は、12月4日の上映後のティーチ・インに登壇すると、「偉大な小津監督と俳句の国、日本でのプレミア上映をとても嬉しく思います」と挨拶。彼はこれまで多くの短編映画で高い評価を得てきて、日本でも99年の東京国際映画祭シネマプリズムにて短編『鉄道員』が紹介されている。この長編デビュー作は、一人の老写真家の、公園に出かけてはポートレートを撮る日常と、同じくその公園に毎日のようにやってくる人々の姿を、淡々ととらえたもの。人々の何気ない仕草や表情に、うつろい行く時とその中で生きる人の姿が、観る者を心地よいリズムで満たしてくれる。
 本作で主人公の老人を演じたアスガーレ・ピチァーレは、実際に高名な写真家として活躍している方。その起用の理由は、彼が写真家だったからではなく、劇中の老人のキャラクター的にあっていたからと言うソブハニ監督、「彼に関してのビデオを見た時、その中で見せた一瞬の眼差しが、主人公にピッタリだったからです」とそのポイントを語った。
 そのストイックな作風に、第1回東京フィルメックスで紹介されたイラン映画の巨匠ソフラブ・シャヒド・サレスの監督作を思い出すとの林ディレクターの問い対し、監督は「とても嬉しい言葉です。私たちがこうした映画を作れるのは、サレス監督やナデリ監督らのおかげだと思いますし、彼らの素晴らしい光がなければ、我々がその影でこうして映画を作れることはなかったと思います」と穏やかな表情で答えた。
 劇中、老写真家の部屋の窓の外を行き来する様々な色の列車の場面がまた印象的な作品だが、その色合いはあくまで運行スケジュールの偶然が作用したものだそうだが、スピード感があり、人生の流れ、生きることを感じさせるためにこの場面を撮ったそうだ。
 なお老写真家はもとより、公園に来る人々一人一人の存在感の自然さも忘れ難い印象を残すが、キャスト陣はプロの俳優と素人の混成部隊で、プロの俳優も映画でメイン・アクターをつとめるのは初めての方ばかりだったそうだ。
(宮田晴夫)

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