中国の地方都市・大同を舞台に、気持ちでは変化を求めながらもダラダラと、定職にも就かず出口無き日々を送る19歳の二人、シャオジイとビンビン。ジャ・ジャンクー監督の『一瞬の夢』『プラットホーム』に続く劇場長編3作目となる『青の稲妻』は、劇伴が無い長いショットの積み重ねで、行き場所の無い思いを抱えた二人の倦怠感に満ちた日々をたんたんと捉えていくことで、観客に主人公達の思いと同じくさせていく。そんな中、流れるリッチー・レンの「任逍遥」が、なんと心を揺さぶってくれることだろうか。
 12月3日の上映後のティーチインに登場したジャ・ジャンクー監督は、小柄でその実年齢(弱冠31歳にして三大映画祭を制す!)より、さらに若い印象だ。

Q.監督ご自身が初めて役者として出られてましたが、その経緯を教えてください。
——確かに冒頭でオペラを歌ってるいかれた男は僕自身です。これは伝統的な手法として、この作品の抽斗に当る部分をつけてみたいと思い、なら自分でやってみようと思ったのです。
(なお、監督は実は自分の全作品に出ている旨が、市山ディレクターより補足された)

Q.舞台に大同を選んだ理由は?
——大同は僕の故郷と同じ山西省にありますが行った事が無く、ドキュメンタリーの撮影で訪れた際に、この町の虜になってしまったのです。大同は辺境の地に来たような雰囲気があるんです。地理上も内モンゴルとの境に近く、また石炭業の町だったのが、資源が枯渇したことにより町自体寂れてきていて、失業者も増えています。そうしたことが醸し出す、茫洋とした雰囲気が僕の心をうち、切ないような心の痛みをうったえかけてきてくれたからです。

Q.北野武監督のオフィス北野が本作の製作に携わっていますが、北野監督をどう思われていますか?
——まず自分の3作品の内、2作品に製作援助していただいたことに大変感謝しています。僕が北野監督作品を最初に見たのは、大学2年の時で『あの夏いちばん静かな海』です。あまり情報も無く見て、強く印象に残ったことを覚えています。その後は、新作の『Dolls』までずっと見させてもらっています。僕が北野監督作品を見て思うことは、表面には出てこない繊細さを毎回発見できるということだと思います。

Q.今回の作品にはリッチー・レンの曲の題が中国題になっていますし、劇中でも繰り返し使われてますね。また監督の他の作品にも、香港や台湾の曲や映画が出てきたりしますが、監督は香港や中国のサブ・カルチャーが中国にどのように影響し他と思いますか?
——ご指摘のとおり、僕の3作品全てに香港や台湾の流行歌や文化・芸能が入っています。それは自分が成熟していった過程と関係が有ると思います。丁度文化大革命が終り流行歌やサブ・カルチャーがほとんどなかったところに、段々流行歌等が入ってきた過渡期に僕は青春を過ごしました。ですから誰でも、長く孤独に思える青春の時に共にあったものが、そうした歌や文化ですので自分の中で断ち切ることはできないのです。もう一つ、中国では「この曲がはやるのは判る」と思える曲が、ヒットしているように感じます。また、リッチー・レンの「任逍遥」という曲ですが、ある時新聞に載っていた東北省の若い少年の二人組が銀行強盗についての記事だったんですが、二人の内一人が強盗に行くときに、母親に書き残していったものがこの曲の詞だったそうです。これが非常に印象に残って、もう一度この曲を聴きなおすきっかけを得ました。この歌は大都市ではあまりうけず、大同のような小さな町を中心に専ら受けたようです。それで歌詞を読んで、「英雄は生まれでは決まらない」に行き当たり、僕自身も小さな町の出ですので、そうした気持ちに共感できることに納得しました。今の中国は、発展が加速されていく中で、ある意味で地域差や貧富の差が広がっている中で、人々の共感を呼ぶ歌詞だったのですね。

Q.主人公がVCDを売る場面で、監督の前作等は若者受けしないから扱ってないという台詞がありましたが、実際には監督の作品は中国の若者にどのように受け入れられているのでしょうか?
——丁度東京に来る三日前に、中国で『プラットホーム』の海賊版が出回ったばかりです。VCDを買いに行った店で、ジャ・ジャンクーの『プラットホーム』が入ったけど買わないか?と言われ、自分の子供が突然他所の家にお邪魔しているようで、呆然としてしまいました(笑)。クリエイターにとって、海賊版はもどかしいというか複雑な心境にさせられますね。というのは、映画は必ずしも誰もが自由に見易いような公開状況ではなかったので、海賊版があったからこそ見れたというような恩恵もありますが、とりあえず非合法ですからね。そんな居心地の悪さはありますよ。

なお、『青の稲妻』は2003年新春第2弾作品としてユーロスペースにて、以後全国順次ロードショー!

(宮田晴夫)

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