いよいよ本日12月1日より8日間にわたって開催される第3回東京フィルメックス。今年もアジア地域を中心に世界各国から注目の作品・作家が集結し映画ファンに新たな発見を味あわせてくっるだろう。
 111月30日の夜、有楽町シネ・ラ・セットにて前夜祭として、韓国映画『黒水仙』の特別上映と、主演俳優でまた今回の東京フィルメックス・コンペティション部門の審査委員長を務めるアン・ソンギ氏が来場し、上映前に舞台挨拶が行われた。
 スラリとした長身をラフなジャケットとジーンズに包み登壇した姿に、女性ファンからの視線を集めながら「週末の晩にも関わらず、『黒水仙』と私と共に一時を過ごすために集まっていただいてありがとうございます」とお礼の言葉を述べ、作品に関して紹介。
 『黒水仙』は名コンビとして知られるベ・チャンホ監督との13本目のコラボレーションであり、昨年の釜山映画祭のオープニングを飾った話題作で、海上に浮かんだ男の惨殺死体に関して警察が捜査を進めて行く上で、事件の背景にあった南北分断期の悲劇が次第に明かされていくというサスペンス・メロドラマ。「今でこそ、韓国のキム・デジュン大統領と北朝鮮のキム・ジョンイル総書記が公の場で抱擁したりと、以前に比べ南北分断の状況は大分薄らいできていますが、悲劇は未だ残っています。そうした南北分断の悲劇や、傷跡が本作のテーマです」(アン・ソンギ)。映画の中では50年の歳月が流れる設定で、彼は実年齢をはさんで相当若い役と、年老いた役を演じてみせた。
 近作は『ピアノを弾く大統領』という作品で、韓国映画としては初めて大統領をモチーフとした作品で大統領役を演じる。また次の作品も韓国でははじめての本格的なミュージカルで、大統領役から一転し品性卑しい悪役を演じると笑顔でコメント。『ピアノを弾く大統領』韓国本国では12月6日の公開ということで、本来だとその場に立ち会わなくてはならないところをおして、今回フィルメックスのために来日してくれた。「本国で公開を見届けられないのは残念ですが、東京フィルメックスで楽しい時間を過ごしたいと思っています。兎に角、肩の力を抜いて、リラックスした状態で映画を楽しんでいただければと思います」(アン・ソンギ)。
 上映作品の『黒水仙』は、製作費40億ウォンを投入した娯楽大作。歳月としても朝鮮戦争当時から現代まで50年にわたる長い期間を扱うのみならず、舞台も一部日本の宮崎にまで及ぶ広がりを見せる。一部強引過ぎる展開も目につくが、今なお続く南北分断の悲劇を娯楽色を盛り込みつつ、しかし真摯に捉えた力強い展開は見応えがある。中でも、アン・ソンギ氏の抑えた演技、特にクライマックスで見せる表情は会場のファンを魅了し、終映時には大きな拍手がまき起こった。
 なお12月2日(月)には18時から有楽町朝日ホール11階スクエアにて「韓国映画の現在〜アン・ソンギ氏を囲んで〜」と題されたトーク・イベントも開催され、アン・ソンギ氏へのティーチ・インも開催予定(入場料無料)。
(宮田晴夫)

□作品紹介
黒水仙
□公式頁
東京フィルメックス