郵便配達員により監禁された少女の1年半の記録…などと書くと、「どこかで聞いたことのある話だよね」と言った反応で、終わってしまいそうな映画ファンもいるかも。しかし、あえて言わせてもらおう。それは、かなり勿体無い早計であると。社会問題となった女性拉致監禁事件の映画化と言えば、近日3作目が公開されるシリーズ作品等が有名だけど、この『飼育の部屋』は濃密な心理ドラマと、その先に待つ意外な展開で、そうした作品のイメージを見事に覆す全く別の楽しみに満ちた作品に仕上がっているのだ。
 11月9日、都内で本作のマスコミ向け披露試写が開催され、主演の郵便配達員・松男役の小沢和義、短大生・まどか役の桜井真由美、脚本も担当したキム・テグワン監督が舞台挨拶を行った。
 「苦労した点はね、重いんですよ。こうして両腕で身体を持ち上げようとすると、腰がバキッとね(笑)」、と桜井に失礼…いやいや場を和ます冗句を発する小沢。可愛く抗議しながらも撮影時を振り返る桜井によると、本作の現場では、本番中は気持ちが本当に拉致監禁されている気分になり、途中から本番とそうでない時の区別がつかなくなっってしまう心理状態もままあったとか。「休憩時に小沢さんが冗談で手を上げたときに、ヒィッとなったりとか。はまりこみすぎましたね」(桜井)。「芝居でやってる間に、生っぽくなってたりそういうのがよく出てるよね」(小沢)。因みに本作が映画初主演となる桜井だが、1年半を1時間半に縮めての心理描写、まどかが笑ったり、泣いたりしているときも、何を考えているかという部分を注目して欲しいとコメント。これは結構重要なポイントだ。
 キム監督は、本作が劇場用作品2作目となる。『飼育の部屋』はプロデュース・サイドの話からスタートした企画とのことで、優秀な職人監督たることを自らに課し、1週間という短くも濃密な撮影期間ながらその間スケジュール厳守、タク送無しで作品を完成させた。とはいうものの、人間の関係性を描く上で現代生活に不可欠なアイテムを盛り込むなど、細やかな拘りなど、作家性も随所に目につく。しかし、何よりも今回の作品の見所は俳優同士の対決であるとも。「俳優の人数が少なく、各シチュエーションがほぼ二人の役者が1対1で演じ、その火花の散らし合いが面白い」(キム監督)。中でも、松男と弁護士(根岸季衣が熱演)による会話の場面は、ある意味物語としては事件が完結したあとであるにも関わらず、脚本で10ページもあり、近い構成を持つ黒澤明監督の『天国と地獄』よりも長い会話の場面となっていて、キム監督会心の場面に仕上がっている。それと並び、最初に松男がまどかを拉致する一晩も、拉致する側・される側双方にとって長い場面で、どちらもこれから観る方は、そのテンションの高さに注目だぞ。

 なお、『飼育の部屋』は2002年11月30日より吉祥寺バウスシアターにて衝撃のレイト・ロードショー!また出演者・監督による舞台挨拶は、初日と7日に開催予定。
(宮田晴夫)

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飼育の部屋

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