今年の東京国際映画祭コンペティション部門には、邦画の新作が3本エントリー。その先陣を切って上映されたのが『ココニイルコト』で監督デビューし、本作が第3作目となる長澤雅彦監督の『卒業』。ある雨の日に運命的な出会いを果たした二人、卒業を目前に控えた短大生と、大学の心理学講師。それぞれの想いの変化を、説明的な台詞をほとんど用いずに丁寧に追いかけていく。終映後のティーチ・インには、永澤監督とヒロイン麻美役を演じた内山理名、大学講師真山役を演じた堤真一を迎えてティーチ・インが行われた。
 内山は本作が映画初出演にして主演作。話をきいた時は嬉しさでいっぱいだったが、初めてのプロに囲まれての撮影と、ドラマとは異なり一つ一つの撮影を大事にする映画に、責任感とプレッシャーをかなり感じたそうだが、「今日沢山の方に来ていただき、嬉しさでいっぱいです。これを機会に、これからも頑張りたいと思いました。」と笑顔で応えた。今回の役柄は、詳しく書くことは控えるが、微妙な感情を演じる難しい役柄だ。実際の自分とも異なるし、頭で考えただけはわからない役だが、「でもやはり考えて、麻美の目線から見た自分が真山に感じたものを表現を」する形で役づくりに臨んだそうだ。
 様々な役をこなす演技派として知られる堤だが、それでも今回のような一見優柔不断にすら見えそうな、自分を語らない役柄はちょっと珍しい。「こういう役は初めてだど、スタッフが本当にプロフェッショナルで、現場は粘るんですよ。「早く帰りてぇ」と思いながら(笑)、でも現場にいることが心地いいというか、撮影が全部終わった時に映画をまたやりたいと思いましたね」と今回の現場を振り返る。真山もまた非常にファジーな役柄だが「言葉にしない役ので、自分がこの時にどうという演じ方よりライブ的な感じがあった。意識として麻美を女としてみないようにしようという方向で演じてたつもりだが、絵的にはそちらの方がエロティックになっていたり不思議な感じでしたね」と、演技について応えた。仕上がった作品に関しては、「撮影の大変さが出てなくてよかったね」と笑う。
 情報が氾濫し饒舌な現代に、寡黙な作品を撮った永澤監督の意図はどうだったのだろう。「喋っちゃうと言葉の意味だけで終わっちゃうんですけど、喋らずに考えていたり、何かを見つめていたり、そういうことをしている人を見ると、何かあるだりうということを思っていました。多分見てくれているお客さんも、麻美であったり、真山であったりが実際何を考えているかは別として、自分自身の考えをどんどん仮託してくれるのではないかという風に」。勿論、脚本上では二人の関係については全て明かにされ、スタッフ・キャストは共通人引きに立って撮っている。「二度目にそう思ってみると、二人の演技やカメラワークなどが計算されていることに気づき、二回目の方がより楽しめるのではないかと思ってね」。
(宮田晴夫)

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第15回東京国際映画祭