先週末より有楽町スバル座でのロードショー公開が、好評のうちにスタートした大林宣彦監督の『なごり雪』。正やんの愛称で親しまれる伊勢正三の同名曲を原案とする本作は、一般劇場公開とはまた別に、この作品ならではの上映形態が行われてきた。題して、『なごり雪』スクリーンコンサート。全国のホールにて、本作のプレミア上映に大林監督と正やんのトークショー、そしてアコースティックライブをセットした二人のコラボレーションにより日本、そして古里への想いをピュアに観客と共有しようという試みだ。この東京公演が、10月1日にゆうぽうと簡易保険ホールにて開催された。当日はご存知のとおり台風接近により大荒れというあいにくの天候だったが、幅広い層の観客が集まり、中でも劇中の主人公や正やんと同じくらいの、いわゆる団塊の世代の男女の姿が目につく。
 ステージは、大林監督のピアノと正やんのギターにより、本作のオープニング部分の演奏からスタート。続く30分ほどのトークを通じ、本作の背景や原曲、舞台となった臼杵についてなどが、優しくしかし強いポリシーを持った口調で語られた。大林監督は当時、アメリカで生まれたフォークソングがベトナム戦争等を背景とし反戦や平和といったプロパガンダの歌だったのに対し、日本の弟達(正やんは監督の一回り下の年代となる)のフォークソングは、いかにも叙情的な印象を感じたそうだが、それは今聞くと日本の春と個人の尊厳を謳った若者達の異議申し立てであったことがわかったと語る。28年前の叙情的な歌は、21世紀を迎えた今、日本から失われていった何か大切なものを歌っていたものなのだと。そんな歌の世界が、町残しの姿勢を貫いてきた28年前から全く変わらない町、臼杵であるからこそ描くことができたのだと。
 そして正やんの歌う姿からスタートする『なごり雪』の上映が終わると、いよいよアコースティック・ライブの開演だ。『なごり雪』はもとより、かぐや姫、風、またソロとして正やんが歌ってきたアコースティックな名曲の数々は、同世代の者にはノスタルジックな感傷と時を経ても継がれていく感動を、若い世代には新鮮さを感じさせ場内の聴衆を魅了する。また既成曲に留まらず、本作の撮影中にヒロイン雪子が敵わない年上の女性、とし子を演じた宝生舞へと、大林監督が詞を書き、正やんが曲をつけた未発売曲『泣く前』も二人のデュエットで披露された。さらに、ライブの合間にはゲストも続々と登場。三浦友和演じる祐作の青年時代を演じ、今回の映画を通じて日本語の発音が良くなったと言う細山田隆人、雪子の親友弘美を演じ、また現場でスタッフのお手伝いも経験した日高真弓というフレッシュな二人が、思い出話と感想を語った。また実はこの日、かぐや姫時代の盟友パンダさんこと山田パンダも観客として来ており、正やんの呼びかけで急遽舞台へ。かぐや姫当時の思い出話を得意の話術で披露し、また『なごり雪』『僕の胸でおやすみ』の2曲を二人で歌い、二人のかぐや姫の歌声という思わぬ贈り物に、同世代ファンは魅了された。因みに、もう一人のかぐや姫、おいちゃんこと南こうせつはこの後九州で開催される公演に駆けつけてくれるそうなので、70年代フォークに身を捧げた世代はそちらも要チェックだね。

なお、『なごり雪』は有楽町スバル座他、全国にてロードショー公開中!また、全国で順次開催中のスクリーン・コンサートのスケジュールは、下記公式頁にて参照ください。
(宮田晴夫)

□公式頁
なごり雪

□作品紹介
なごり雪

□トピックス
大林宣彦監督インタビュー
伊勢正三インタビュー

□スーパーレポート
大分先行上映報告記者会見レポート
“映画と、古里と、日本の幸福”『なごり雪』シンポジウム&特別上映試写会レポート
『なごり雪』外国特派員協会主催記者会見レポート