「消費」を煽る風潮が高まり各地で乱開発が続いた高度経済成長期に、“古き良きもの”をかたくなに守り続けてきた大分県臼杵市。その姿勢に感激・共感した大林宣彦監督により臼杵を舞台に「清貧の心」への回帰を謳って撮られた『なごり雪』。そのメッセージを海外の方にも広く知ってもらおうと、9月20日(社)日本外国特派員協会の協力のもと、本作の英語字幕版特別上映と、大林宣彦監督、『なごり雪』の作者であるシンガーソング・ライター伊勢正三氏、臼杵市現市長の後藤國利氏を迎えての記者会見が、外国人記者を含む多数の出席者を集めて開催され、それぞれが作品世界とその「清貧の心」についてを静かに、同時に力強くアピールした。
 大林監督は、続いて2月にゆうばり国際映画祭が開催される北海道夕張市の中田市長が、海外視察を行わずその分各国の文化に直接ふれられる映画を取り寄せ市民とそれらの国に関する理解を深めていることを紹介し、「皆さんに今日『なごり雪』を見ていただいたのはそれと同じで、『なごり雪』を通じて日本の美しさ、文化を皆さんにより深く理解していただけたらと思いました」とコメント。少年時代を過ごした二次大戦中に、当時の敵国さえも攻撃を控えた文化遺産の数々が、開発の名のもとに日本人の手により破壊されてきた現状を憂いつつそうした中で静かに戦ってきた伊勢氏、後藤市長を紹介すると、そのことの喜びを語った。
 伊勢氏が約30年前に書いた『なごり雪』は、その後女性シンガーによりカヴァーされ、人々に知れ渡って今でも歌い継がれる曲となっていったが、その段階で既に自分の手は離れた認識を持っていたという伊勢氏。そのヒットした時期ではなく、現在こうして取り上げられ映画に貢献したことは嬉しいことだし、素敵なことだと思っていると語り、また作った当時気付かなかった様々なことを、監督が映画によって明らかにしてくれたとコメントした。
 また「我が国が一番元気でしっかりしていた60年代から70年代にかけての時代の景色を再現する場所として、臼杵を選んでいただいたことをに誇りを感じている」と語った後藤市長は、待ち残してきた町の景色のことや、日本の高度経済成長を駆け抜けてきた世代である自身のアイデンティティと、現在の日本に対しての悔恨の念を語りつつ、ながら作品にこめられたそうした部分を沢山の人に理解して欲しいとコメントした。
 なお、記者からの質疑では、もって回ったような恋愛模様は今の日本の若い世代や、海外の方には難しい作品ではなかったかという声もあがったが、大林監督はその懸念を否定はせず、しかし自信のこもった口調で「プロモーション型の映画は若者に合わせて作品が彼らに摺り寄っていくが、アドバタイジング型の映画では大人がきちんと信じることをやっていれば、子供達はちゃんと背伸びしてついてきてくれる。また、外国の方にも、文化や歴史の違いがありますから、難しいかもしれませんが、私は必ず日本の美しさを感じ取ってもらえる。映画監督の仕事は観客を信じることから始めるものなので、これは信じています」と答えた。

なお、『なごり雪』は有楽町スバル座他、全国にて、2002年9月21日よりよりロードショー公開!。
(宮田晴夫)

□作品紹介
なごり雪

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大林宣彦監督インタビュー
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大分先行上映報告記者会見レポート
「映画と、古里と、日本の幸福」シンポジウムレポート