この春、先行公開された大分での大ヒットも記憶に新しい大林宣彦監督の最新作『なごり雪』が、今月末よりいよいよ全国公開がスタートする。9月18日、本作の特別上映試写会とゲストを招いてのシンポジウムが、九段会館にて開催された。本作の世界の中で描かれている、今の日本、今の日本人が失いつつある日本人の心。誇り高く、健気に未来に向かい一所懸命生きてきた日本人の姿。そして、経済生活を願うのではなく、古いものの価値を認めて、次世代がそれを活かすまで待つ「待ち残し」「町守り」をベースに、大林監督、本作の舞台となった大分県臼杵市現市長の後藤國利氏、『おれがあいつであいつがおれで』(『転校生』原作)など大林作品に多くの原作を提供している山中恒氏、ジャーナリストの筑紫哲也氏が登壇、約1時間半のディスカッションが行われた。
 尾道で25年間映画による「町守り」の戦いを続けてきた大林監督。それら高度経済成長期に製作された山中氏原作の3本を含む作品群は、どれもファンタジーを武器にすることにより、町を変えないで欲しいという経済原則に相反するリアリティのないことを、そんな素晴らしい夢物語が見られる町こそ尾道だと語ってきた。そして「待ち残し」を行政及び市民が理念とする臼杵でならば、もう少し甘さやオブラートに包まずに素顔の形の映画が作り得るのではないか。また、題材となった『なごり雪』は、春がなくなりつつあり、大量生産・大量消費のファッションにより僕だけの恋人も横並びになり始めた28年前、自分だけの君そして日本の春を大切にしようと気骨の唄であったと。「映画は娯楽であり芸術でありプラカードがついているわけではないので、美しい物語を感じてくれればいいのだが、その物語を通じて今を生きる我々が何を観客の皆さんと語り合えるかを問い掛けてみようとしたんです」今作の経緯を語った大林監督。
 後藤市長は、「現在のありのまま何も足さず、何も引かずで、28年前の回想シーンが撮れる町」と紹介し、工業化を阻止し一部からの経済的な不満に葛藤を憶えつつ、「待ち残し」をすすめてきた経緯についてを、また山中氏は戦後戻ってきた小樽、そして後に移り住んだ藤沢や町田、筑紫氏は大分の日田といった自身の古里の姿とそれぞれの思いを通し、今の日本が向かうべく未来に関してディスカッションを行った。中でも、大林監督が語った映画や社会の姿等を含めての“広告”が本来持つべき二つの要素、アドバタイジング(信頼)とプロモーション(経済効率)のうち、日本では高度経済成長期以降、後者の要素のみが重視されてきた中、これからはプロモーションではなくアドバタイジング的な生き方を求めようという提言には会場から賛同の空気が満ち溢れた。

なお、『なごり雪』は有楽町スバル座他、全国にて、2002年9月21日よりよりロードショー公開!。
(宮田晴夫)

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なごり雪

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