今や幻の大蔵怪談映画のB級エログロホラーを現代に!そんな想いから作られた4中篇からなるオムニバス怪談『妖奇怪談全集』。著作の取材中に7本中5本の大蔵怪談を発掘した山田誠二氏が、既に存在しなかった『怪談異人幽霊』のリメイク+大蔵映画に負けないヴァリエーションを持った3作品ということで、濃縮山田ワールドを作り出すべく妄想・監督・脚本・その他諸々を兼任。全4話のヒロインを、現在の国産ホラー最強のホラークイーンとしての揺ぎ無い地位を誇る三輪ひとみさんが具現化し、作家であり本作には語り・編集・音響効果として参加した京極夏彦氏がパッケージ化し、平成の観客にはおよそ馴染みが薄い尋常では在らざる怪談世界を見せ付けてくれるのだ。
 本作を、ビデオ化に先立ち一挙上映するプレミア・オールナイトが、8月24日の深夜、BOX東中野にて開催された。この日の上映は、『怪談幽霊新聞』『怪談釘狂い』『怪談血潮の飯』『怪談異人幽霊』という全4エピソード+原典たる大蔵怪談中『沖縄怪談・逆吊り幽霊 支那怪談・死棺破り』が一挙に上映されるという、豪華(?)かつ実に判ってらっしゃるプログラミング。さらには、ゲスト陣によるトークショーも開催されるとあって、会場は立ち見も出る盛況となった。トークショーは、山田監督、三輪嬢に加え、当日発表のスペシャルゲストとして京極氏も中盤から舞台に登場。先だって三輪嬢とのコンビによる映像版『新耳袋・木原浩勝の美女怪談』を発表した怪異蒐集家・木原浩勝氏による進行で、作品を巡ってのここぞとばかりの秘話が続々と披露される苦笑・爆笑の連続波状攻撃的なトークショーとなり、盛大な盛り上がりを見せた。
 さて、今回の4作品だが、物語としては全て独立したものである。にもかかわらず、全てのヒロインを三輪嬢が演じるのは、どのような意図だったのだろう。そもそも三輪嬢の起用は、山田監督がライターとして参加している『映画秘宝』関連と、監督の『必殺!』仲間でもある京極氏という二つの方面から声があり、しっかりした方ということでメインたる『異人幽霊』のヒロインとして即決した。ところが、他の3作品のヒロインを考えた時に、彼女に匹敵するグレイドの女優さんが見つからない。「それで例えば現在、中川信夫監督、若杉嘉津子主演のDVDを、ファンは並べて保存するように、作ったときは一緒でも何年かたてば、そろえれば一緒だろう。だったら全部三輪さんでいいし、また4パターンの三輪さんを試してみたいと思ったんです」(山田監督)と、実に壮大(?)な思いによるものなのだ。
 トークの最中、男性ゲスト陣全ての口がすっぱくするほど(そしてこればかりは、観れば納得)繰り返されたように、作品の大きな魅力となった三輪嬢。過酷な状況が予想される脚本でありながらも本作出演を決定したきっかけは、ホラー出演は多かったが、怪談話はあまりなかったと、4本全く違う役をやれるからだと笑顔で語る。それでも関西の現場に入り、1作品2日計8日という撮影スケジュールには、流石に驚きを隠せなかったようだ。また、人間と人在らざる者を演じ分ける際に心掛けることは、「人間は普通にやっていればいいんですけど、幽霊の時は存在感を残したまま、表情とかは人間臭くならないように気をつけました。でも、今回は幽霊であるのが思いっきりわかりますよね」と語る三輪嬢。因みに、ホラー作品の出演が多い彼女だが、意外なことに特殊メイクは今回が初体験だったそうだ。因みに、4作品の中で彼女自身が一番気に入ったキャラクターは、『幽霊新聞』のコロッケちゃん。
 なお、撮影のペースは1日1時間分のシーンをあげるハイ・ペースで進行したが、そのあおりをくい悩ましくも楽しい日々を送ったのが、スペシャル・ゲストの京極氏だ。「たった二日でコンテもなしでとられた素敵な素材が、ド〜ンとうちに送られてきて…撮影は2日で済んでも、編集は2日じゃ終わらない」と苦笑する京極氏だが、そこは山田監督とは『必殺!』繋がり等での旧知の間柄同士。音入れや編集の苦労話を披露しつつも、「山田監督の情熱が凄い。それとめくるめく山田ワールドに入っちゃうと、面白くてどうでもよくなる。とても心地よく、抜け出せなくなりそうで怖い(笑)」と、本作の魅力を纏めた。
 また劇場に駆けつけた共演女優3名も舞台に立ち苦労話を披露したほか、三輪嬢首から下生き埋め、血糊の秘密、蛇のことなど、作品のポイントとなる裏話が続々と披露され爆笑とまったり感が交錯する濃い1時間となった。それでも、「絶対に地上波では見れないし、1回ではこの深みはわからない」と木原氏のお墨付きを頂戴した、本編のぶっ飛び具合には敵わないかもしれないけれど…。
(宮田晴夫)

□スーパーレポート
幻の大蔵怪談を目指して〜「妖奇怪談全集」山田誠二監督