膨大な情報と緻密な設定による圧倒的な世界観が多くのファンを虜にした士郎正宗氏によるマンガ『甲殻機動隊』は、押井守監督により95年劇場用作品『GHOST IN THE SHELL/甲殻機動隊』として映画化され、日本はもとより世界各国で公開・リリースされ、ジャパニメーションの代名詞として、世界中で確固たる地位を築いてきた。そして、今TVシリーズとしての新たな『甲殻』ワールドが、再び世界を席巻しようとしている。
 『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』は、全26話の新作TVアニメシリーズとして現在製作も大詰めを迎え、日本ではスカイパーフェクTVのPPV(ペイ・パー・ヴュー)チャンネルを通じ今年の10月から約1年間に渡っての放映が予定されている。今回の新シリーズには、原作者の士郎正宗氏が設定・デザイン・シノプシスなどに全面参加し、劇場版・原作どちらとも異なる新たなパラレル・ワールド的作品世界を創造するとのことで、その世界観にも注目が集まる。アニメーション制作は、劇場版と同様プロダクション・アイジーが参画。手書きアニメーションと共に最新3D技術をふんだんに駆使し、全編HDフルデジタル、しかも5.1ch音響という劇場作品にも全く引けをとらないハイ・クォリティな作品を目指す。その製作費は、TVシリーズとしては破格の1話あたり3千万・シリーズトータルでは8億にも及ぶビック・プロジェクトで、劇場版以上に幅広くワールド・ワイドな展開を目指すという。
 本作のマスコミ発表会と第1話「公安9課 SECTION-9」の披露試写会が、8月22日セルリアンタワー東急にて開催された。記者発表では、TVシリーズは初監督となる『ミニパト』などの神山健治監督、音楽を担当の菅野よう子さん、劇場版と同じく主人公・草薙素子を演じる田中敦子さんに加え、製作・配給関連各企業の代表としてアニメーション制作元である(株)プロダクション・アイジーの石川光久プロデューサー、国内でのパッケージ・ソフト展開を行う(株)バンダイビジュアルの渡辺繁プロデューサー、欧米での展開を行う(株)バンダイ・エンターテイメントの彌富健一プロデューサー、アジア地域での展開を行う(株)電通 エンターテイメント事業局の田中渉氏、日本での初放映をPPVで行う(株)スカイパーフェクト・コミュニケーションズの花内誠プロデューサー、(株)アニマックスブロードキャスト・ジャパンの滝山雅夫代表取締役社長らが、それぞれの役割分担と作品に対する思いをこめた挨拶を行った。
 今作のコンセプトの一つは、若手スタッフ陣による新たな『甲殻』の創造。その代表的立場にいるのが、監督の神山氏。「若いスタッフでやっていくが、それは好き勝手にやるということではなく、『甲殻』のファンだった僕らが、TVでかかるとして自分達ならどういうものが観たいか?ということを本気で考え、自信を持ってやってきたつもりです。キャリアが無いので、どんなものが上がってくるか周りの人も心配していたと思いますが、今アフレコとダビングが終りそれを少しづつ外部の人たちに見てもらって、徐々にお誉めの言葉をいただくようになり、僕自身も自信を持ってこの作品を送り出せる気持ちになってきたところです。」と心境を語った神山監督には、この日は劇場版の監督でもあり神山氏が師事した押井守監督から「カントクは一歩前進二歩後退です」と書かれたイラスト入りのメッセージが届けられた。あまり弟子・師匠と言ったことを語らない押井監督からのものだけに、このメッセージには「一応弟子だと認めていただけたのかとちょっと嬉しく思う」と笑顔を浮かべる神山監督。
 作品は劇場版とは異なり、1年間の長丁場となるため演出・構成面で気を使ったという。作品にどっぷり付き合ってくれる脚本家チームをはじめとするスタッフを組織することからはじめ、士郎氏からのシノプシスにこめられたメッセージを解読しつつ、アニメ化をすすめた。そのポイントの一つは、原作にあった作品の情報量の多さをいかに消化していくかであり、兎に角映像のスピード感を損ねることなく、大量のダイアローグの中に情報を叩き込むよう、脚本家チームにとっては困難な要求をしたという。「シリーズを通しての仕掛け等は、観客がぼやぼやしていたら見逃してしまうくらい沢山入っていますが、それに気付かなかったとしてもちゃんと面白いように構成されています。その部分は、是非見てもらいたいですね」(神山監督)。
 劇場版とは異なる新たな楽曲で作品に広がりをもたせる菅野よう子さんは、「監督が最初の打ち合わせで、スタッフで集まって化学反応を起こしたいねとおっしゃってましたが、どちらかと言うと理論的なことを考える左脳の方をほとんど使わないで生きている私が、このロジックと言うか密度の高い作品に入り込むことによって、東大の研究室に放り込まれた野生動物みたいな感じのただならぬ気配とか、思わぬ泥臭さとか場違いな感じの熱気とか、そういうものをたずせたら、作品が呼吸できる空気穴みたいなものを開けられたらということを、自分に課せられた仕事だと思って曲を作っています」とコメント。
 また田中敦子さんは「草薙素子は私にとって、かけがえの無い存在で大変光栄にまた幸せに感じています。今回のTVシリーズは、劇場版の時とほぼ同じキャスティングでスタートできたことも出演者一同大変嬉しく思っています。長丁場となりますが、劇場版のクォリティそのままに、またそれ以上のものを出していけるように、公安9課一同一丸となって、日々一貫向かっておりますので、皆様のご支援をお願いします」とコメント。因みに、監督の話にもあったように、TV版は劇場版に比すると台詞の量は大幅に増え、様々な情報は、荒巻課長と草薙素子との会話の中に盛り込まれているものが多いとのこと。キャラクター同士の台詞の応酬も、要チェックだ。

 なお、TVシリーズ版『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(全26話)は、アニマックスPresentsとして、スカイパーフェクトTV CH.149 パーフェクト・チョイスにて、10月1日よりPPV方式にて放映開始。毎月2話+特典映像という構成で視聴料金は\800/2話。なお、10月1日からの放映エピソードは、第1話「公安9課 SECTION-9」&第2話「暴走の証明 TESTATION」。また、DVD&ビデオソフトは、バンダイビジュアルより12月からの順次リリースが予定されている。
(宮田晴夫)