舞台俳優をはじめ映画以外のジャンルにも幅広く活躍の場を広げる“日本1忙しい映画監督”こと三池崇史監督が、今度は声優デビューを果たした。作品は、山本英夫原作のコミックを劇場版では自らが監督した『殺し屋1』のOVA版、『殺し屋1 THE ANIMATION EPISODE 0』。劇場版でも原作でも描かれなかった過去を描く本作で、三池監督は劇場版では浅野忠信が演じた“ピアスのマー坊”こと垣原役に挑んでいる。
 7月31日、都内録音スタジオにて、三池監督の垣原役音声収録が行われた。この日、三池監督は現在撮影中のテレビ東京の2時間ドラマのロケ現場を抜け出してのスタジオ入り。収録終了後、そのままロケ現場へ戻っていくというその異名通りのアクティヴさだ。収録では、身振りを交えながらの熱演だった三池監督。収録終了後に行われた取材でも、「シャレにならない凄いものになりそうです。大人の物語じゃないので、より動物的で正直なアニメだと思います」と、強い手ごたえを語った。

Q.一通り収録が終わったわけですが、いかがでしたか?
——声がかれました(笑)。

Q.台本を読まれていかがでしたか。
——台詞が無いんでね。「イテェッ!」とか、伝えるものが叫びしかない。これだったら、出来るかなと(笑)。

Q.声優初挑戦ということですが。
——一緒に一役をやった鈴木千尋さん、その専門の方は凄いな。よく我々もアフレコはやるけど、似た世界でも全然違うんだなと。僕の場合、期待されえてるレベルが全然違うわけだけど(笑)。僕らなんかの現場もそうだけど、素人には素人の良さってありますから、いじったりするよりもその原型の方が使うんだったらよかったりしますから。そうでなければ、プロの人たちを使えばいいんでしょうから。

Q.三池監督の劇場版のビフォア・ストーリーになるわけですが、いかがですか?
——多分、山本英夫はもう『殺し屋1』を書かないだろうから、原作のファンであった僕たちに動かさせてくれよというのがあって、山本英夫の方でも大人になった子供なんて好きに生きればいいと野放し状態になっている。こんな野放しになった素敵なキャラクターはそうそうないですから、関わるとやっぱり『殺し屋1』であらねばならないっていう自分にプレシャーをかけて楽しんじゃって、テンションの高い、いけないアニメになりそうです。

Q.映画の垣原は浅野忠信さんでしたが、演る上でなにか
——結構垣原って好きなんで、よかったなぁと。ただ、原作には音が無いじゃないですか。それでアニメになって声が流れたとき、原作ファンの方に「これは違うだろう」とか、迷惑をかけないようにとは思いましたが、ただ好きだから仕方ないよね、まぁいいか…ゴメンねって。でもDVDには、そういうトラックがあってもいいかもね。誰かの声だけ抜けてて、自分でアテレコできるっていう。そうすると皆、垣原かジジィが演りたいだるね。どうしてもイチは「ウェーン」と泣かなきゃいけないから嫌になっちゃうだろうね。

Q.痛みマニアの気持ちになって演じたのですか?
——いやもう、演っていると精一杯ですよね。そのもの自体が拷問に近いんじゃないかな。現場の中で、本番と言うのが拷問に近いですよね。役者も皆、それを楽しんでいるんだろうな。それでいながら、思い通りに出来ないもどかしさとか、複雑な想いね。完璧に演ろうと思うと、一つの台詞でも一生演ってもいきつかない、駄目だとか思いながら台詞を言う。そういう時の気持ちって、役とかは外れて結局自分の素の部分が出てくるしかないんですね。そういう素の部分を出させる脚本かどうかとか、そういう部分で決まってくると思います。いくら僕がふりをしたって、偽者ですから。演じているだけでね。上手いお芝居と良いお芝居は絶対別だと。でも、そういうのを感じさせるのが、『殺し屋1』という作品の凄いところだと思います。

Q.浅野さんではなく、原作のイメージで演じたのですか?
——浅野も垣原ファンなんですね。垣原ってなろうと思ってなれるキャラクターではないじゃないですか。なりきろおったって、どうなるもんじゃないんで、そういう諦めをつけさせるキャラですよね。イチって考えてお芝居で作れるかもしれないけど、垣原だけは作れないですよね。それでいて、シンプル…というかリアルな顔してるから、不思議な存在です。だから、演ってる時には浅野忠信の垣原というのは自分には存在しない。でも腕切られて、痛いよ〜って逃げて殺されちゃってるだけですから(笑)。役作りも何もあらんって。

Q.今後もやりたいですか?
——いやぁ、それは。特別なそれで許されるってことがあればあれですけど、プロの仕事の中に入ってきて役者やったり声優やったりは大変です。これって、わりと皆が面倒見てくれるじゃないですか。まぁ、いいやって。だからやれるんで、声優はやっぱりプロですよ。皆、アニメの声してるもん。びっくりしちゃいますよね。

Q.アドリブとかはいかがですか?
——いや、脚本自体がアドリブみたいなものだったから、いくつか言わなきゃいけないというのは押さえながら、あとは演っていきながらでアドリブと言えばアドリブなのかもしれませんね。でも、余計なことばかりやってても要らないって言われちゃうし。ただ、音の場合は色々録っておいて、後からはめていくことが出来るので、ありすぎて困るものじゃないから、何テイクか演りましたよ。

Q.最後にこれから観るファンにメッセージを
——好きに楽しんで、ぬけるものならぬいてみなみたいな感じですかね(笑)。いや、でも結構笑える作品になるんじゃないんですかね。いっちゃってて笑える。元々原作もそういうところがあるし、映画もそういう風になっていったんですけど、皆で一生懸命『1』を楽しもうとすればするほど、作ってる側が楽しむと笑えちゃうんですよね。人間本質的な部分は、笑って生きるか、悩んで生きるかそれしかないんで、そういう台詞を一切使わず自重しているような形で、自分も監督やるのかなと『殺し屋1』をやってから楽になったし、楽しむしかないんじゃないかと。子供はどう思うか判らないけど、「僕と同じような人がいる」と思う子達も多いだろうから、癒されるんじゃないかと…全然滅茶苦茶(笑)。

なお、『殺し屋1 THE ANIMATION EPISODE 0』は、2002年9月27日より、DVD&ビデオが同時発売&レンタル開始。
(宮田晴夫)

□作品紹介
殺し屋1 THE ANIMATION EPISODE 0
殺し屋1