「宮本武蔵をやりたいですね、彼の心がわかるようになったから」藤岡弘”弘・道<HIROSHI-DO>”ファンクラブミーティング
藤岡弘さんといえば「仮面ライダー」本郷猛、そして「特捜最前線」、映画では「日本沈没」、ハリウッドに単身乗り込み、本物の”サムライ魂”を映画に吹き込んだ「SFソードキル」、最近ではNHK朝の連続テレビ小説「あすか」で温厚な父親役、「せがた三四郎」でのスタントを一切使わない熱演も記憶に新しい所です。又数々の武道の達人としても知られています。
その藤岡弘さんのファンクラブが20年ぶりに「弘・道<HIROSHI-DO>」として発足、第1回のファンミーティングが白金台の「ステラート」で開催されました。ステラートは、天井がガラス張りの明るいレストラン。参加者には飲み物とブッフェ形式の食事が振舞われました。大きなスクリーンも設置され、映像を見ながら藤岡さんのトークを楽しむ事も出来ました。「家族全員藤岡さんが好き」というファンも多い藤岡さん、幼稚園のお子様からかなり年配の紳士淑女まで、幅広い年齢層のファンが会場にぎっしり。臨時の椅子を増やしたりと会場側が大わらわの大盛況でした。
トークでは、何の後ろ盾も無くハリウッドに単身渡り「全部自分の力と技で掴み取ってきた」藤岡さんの「手裏剣を投げて立てるか?と言われればそれをやり・・そしてだんだんと認められて」等の俳優としての苦労話や、「毎日94歳の母親を抱きしめるのが日課」というプライベートな逸話、「国際的に動くとはどういう事か、日本を出て初めて解る」とボランティアとして世界を回った話などを披露、どんな話にも真摯な態度が滲み出る藤岡さんに、聞いている人達の背筋も思わず伸びていく様でした。
「映画は私の基本ですから」という藤岡さんが今演じてみたいのは『宮本武蔵』。「宮本武蔵をやりたいですね、彼の心がわかるようになったから」。それはボランティアで訪れた地で本物の戦場を見、危険を潜り抜けて来た経験が大きかったようです。「以前、私が見ていたヒーロー的な像から、あの宮本武蔵の本当の苦しみや哀しみがわかるようになったから」と藤岡さん。「最後に武蔵は人を殺さなくなった。人を殺す剣から人を生かす剣になる。その意味がやっと解った。人の死を見てきたから。自らが毎日死と直面していたんですよ。だから本来の剣の意味を知ったんです。最後に彼は剣を捨ててますよ」。ぜひ実現して欲しいですね。
質問コーナーでは「仮面ライダーの変身をやって下さい」というリクエストも。照れて最初はためらっていたものの、最後にはポーズだけではなく、変身のアクションも含めて演じて見せてくれました。「数十年ぶり」という”変身”でしたが、一瞬その舞台に現れたのは、まぎれもなく”本郷猛”その人でした。
グッズや本の販売もありましたが、今回の注目はなんと言ってもイヌクマ工房製作の藤岡さんの6分の1フィギュア。「分身」と名付けられたこのフィギュアは完成までに2年の歳月をかけ「人形を見るたび、人生に対して前向きな、力強い希望が湧いてくるよう、魂と心をこめた」藤岡さんの完全監修のもの。あまりに気に入った藤岡さん、ずっと持ち歩いていたとか。これは現在ファンクラブ限定仕様予約受付中です。
トークの後には、抽選でのプレゼントあり、写真撮影や握手もありで、ファンにはうれしい事ばかりの半日はあっと言う間に過ぎてしまいました。ファン一人一人に頭を深々と下げる藤岡さんの姿を見ると、長年のファンが多い理由も解ります。終了後、最後の一人が会場を後にするまで、舞台に立ち尽くしていた藤岡弘さんでした。
シエラのひとりごと〜藤岡弘さんの手〜
藤岡さんと対峙すると、大抵の人は自分が小さな子供になったように感じるのではないだろうか。恐いのではない、大きくて深いのだ。ボランティアで世界中の子供達と逢ったというが、その子供達もきっと私と同じように思い、そして自分達の味方である人をそこに見出したに違いない。藤岡さんは本当に子供が好きだと言う。その数限りない子供達を抱きしめて来た手は、実は傷だらけだ。武道の訓練や撮影の最中での怪我、俳優としてのクオリティを、自負を高めていった途中で増えていった傷。その手は無数の傷で覆われでもなお、力強い。「ここ、良く動かなくて」と示してくれるのも、そんな些細な不自由など何でもないほど、己の身に付けた物が多い事を知っているからだろう。
「難民キャンプで、まず婦女子が子供が逃げてくるんですよ。男はいないんです。どうしてかというと・・男達は戦っている。難民を襲って来るのを食い止めて、妻や子供達を逃がしているんですよ。男達は死に、そこに折り重なって行く。どんな民族も同じだな、男は子供達を守って死んでいく。報道ではわかりませんが」。
「仮面ライダー」として等身大のヒーローとなった人は、あれから長い年月を経て、人間としてもっと大きなヒーローになろうとしていた。
(鈴木奈美子)