「大蔵怪談」と聞いただけで、ある種の映画好きは、ニヤリとしてしまうだろう。大蔵貢製作の怪談映画のフィルムは現存しないと言われていた。それを探し出し、上映、ビデオ化に奔走し、映画ファンに再評価をさせた張本人が山田誠二その人である。
その山田氏が映画を撮った。それも怪談!!オムニバス形式の映画のサブタイトルは「怪談異人幽霊」「怪談幽霊新聞」「怪談血潮の飯」「怪談釘狂い」・・見ているだけでもゾクゾクしてくるではないか。おまけに主演は三輪ひとみ。彼女が短編毎に異なるヒロインを演じているのだ。ナレーションと編集には作家の京極夏彦氏、京都という土地での撮影、スタッフも日本映画の黄金時代の最後の系譜に連なる人々だ。ホラーや怪談、古き日本映画の世界を愛するなら、これは気になる、非常に気になる映画である。

京都在住の山田氏が、折り良く都内にいるという。さっそく話を聞きに出かけた。

「『京極夏彦 怪』の撮影が終わった後に、京極さんと何か映画をやったら面白いな」という話から始まったのがこの映画。山田氏の発掘をした大蔵怪談は7本の大蔵怪談のうち5本、小林悟監督の「怪談異人幽霊」と「怪談残酷幽霊」のフィルムは見つからなかった。その本当に幻になってしまった「怪談異人幽霊」のリメイクと大蔵ティストの怪談を作ろうと。「低予算なものですから、大蔵映画なら丁度良いかなと(笑)」。
「大蔵映画というと、独特のいかがわしさはもちろんある。チープで早撮りで羊頭狗肉というイメージなのですが、実はそうではなくて”怪談映画のバリエーション”を開発したという所で注目しているんですよ」と山田氏。「怪談の映像化は、今も昔も古典怪談がメイン。大蔵貢の凄い所は、新東宝時代から”幽霊と結びつかないモノ”と幽霊を結びつけて、新しいバリエーションを作った所。『憲兵と幽霊』(中川信夫監督 1958)とか。常識外の組み合わせです。怪談映画を従来の物から一歩進化させた」だから今回一番苦心したのは他の3本で「異人幽霊」に負けないバリエーションを作る事だったそうだ。

これが初監督だが「TV番組を作っているので、演出という点では初めてではないけれど、監督としてクレジットされるのは初めて。やはり責任の重さを痛感しました」山田氏は脚本も担当した。「脚本を書く時は脚本家の頭で書き、監督をする時は監督の頭に切り替える。それが意外と大変でした」と語る。「脚本を書く時は『幽霊が現れた』と書くだけですが、監督はそれを具体的にどう絵にするか、考えなければならない。それを実際にどう撮るか、予算、道具、出来る範囲でやらざるを得ない。臨機応変に段取り良く現場を回していかねばならない。それも大変でした」。予算的にも時間的にも余裕がなく、8日間の強行スケジュール。「全部は無理だから絵は一点豪華主義」と笑う。
現場での演出は、現場の皆に「どんどんアイデア出してよ」という形。面白ければどんどん使っていこうというスタンス。たとえば異人幽霊のいる部屋を「いわゆる外人が勘違いした日本風の部屋にした方が良いのでは」というスタッフのアイデアで変更、「面白い絵が撮れました」。

主演の三輪ひとみさんとは今回が初顔合わせ。「三輪さんは寡黙で大人しい印象ですが、本当ははきはきしゃべるし笑顔も可愛い。今まで三輪さんがやりたくてもやれなかった事をどんどんして下さいと言いました」。それに答えて三輪さんも役を作って来て、それを山田氏が膨らませてという上手いコラボレーションになったようだ。「三輪さんはタレントさんではなく、最近珍しい女優さんかたぎ。それにアップの抜き甲斐がある女優さんなんです。ここという時に実にいい表情をしてくれる」それぞれに違う三輪さんが見られそうだ。

京極夏彦氏の編集も注目点のひとつ。「京極さんが思っていた以上の絵にしてくれました」。京極氏と山田氏は、同じ”必殺”ファンとして旧知の仲。「オーソドックに編集も出来るけれど、今風に編集してもいいかな、と言われて、全然かまわないと。こちらの意図する所は踏まえていてくれるから。それが正解でした」。京極氏のナレーションも楽しみだ。

『妖奇怪談全集』
「怪談異人幽霊」「怪談幽霊新聞」「怪談血潮の飯」「怪談釘狂い」

製作:イメージワークス
制作:マーズ・プロダクション、
企画:オフィス・ユリカ
原作:大蔵貢 山田誠二
監督/脚本 山田誠二
特殊メイク・造形 原口智生

美術:山口広喜
撮影:岡田賢三 東基和
照明:中山 裕
語り:京極夏彦
音響効果/編集:京極夏彦
音楽:増山龍太
プロデューサー:石野憲助

主演:三輪ひとみ
出演
「怪談異人幽霊」三輪 ひとみ 岸 燐 金田 淳 都木 淳平
「怪談幽霊新聞」三輪 ひとみ 板橋 知宏 村主 芳
「怪談 血潮の飯」三輪 ひとみ 宮原 淳 夏目 邦夫
「怪談 釘狂い」三輪 ひとみ 岩松 高史 大野 由加里

東京では8月24日夜に、BOX東中野でオールナイトでイベント上映予定。大阪ではイベントは以下の通り。

「怪奇妖怪全集」特別トーク&上映会
〜復活!大蔵映画と三輪ひとみの夕べ〜

日時:8月15日(木)昼の部12:30〜 夜の部18:30〜
会場:日本橋ジャングル・インデペンデントシアター TEL06-6635-1777
料金:前売2300円 当日2500円(昼・夜各1回分) 昼夜通し3900円(予約・前売のみ)

昼の部
トークライブ
出演:山田誠二(監督・作家)、三輪ひとみ(主演女優)、竹内義和(作家・コラムニスト)
上映作品:「怪談幽霊新聞」「怪談釘狂い」「怪談異人幽霊」

夜の部
トークライブ
出演:山田誠二(監督・作家)、三輪ひとみ(主演女優)、竹内義和(作家・コラムニスト)
上映作品:「怪談血潮の飯」「沖縄怪談・逆さ吊り幽霊、支那怪談・死棺破り」

☆三輪ひとみ「新耳袋・木原浩勝の美女怪談」DVD即売サイン会も予定

主催:アートジム
共催:映画秘宝、(株)マーズ・プロダクション (有)ジャングル

お問い合わせ先
日本橋ジャングル・インデペンデントシアター TEL06-6635-1777
アートジム 山本 TEL090-3840-9217 E-mail art-gym@wonder.ocn.ne.jp

(取材・構成/鈴木奈美子)