−−カンヌで上映されたバージョンと本映画祭でかかったものは違うそうですが。

フランソワ・ベルレアン いや、大幅な修正はされてないと思うな。冒頭の部分がちょっと短くなっただけじゃないかな。ただ、試作編集された一番最初のバージョンは2時間40分だった。僕はたまたま観るチャンスがあったんだけどロングバージョンには主人公の若い頃の出来事がフラッシュバックで挿入されていた。子供時代、青年時代、大学に入り学年末試験に失敗したエピソードなんかがね。ダニエル・オートゥイユそっくりの若い俳優が出ていたよ。

  −−本作は実際にあった一家惨殺事件が元になっていますね。当時、大騒ぎになった事件だったそうですが、このニュースを聞いたとき、何を感じましたか。
 ジェラルディン・ベラス 余り三面記事を読まないほうなので、詳しく知ったのは今回の出演が決まってからなの(笑)。フランソワに詳しく解説してもらったわ。事件が起こった93年当時、私はとても若かったしね。
 フランソワ 僕の生涯最初で最後だと思うんだけど、唯一書いたシノプシスが三面記事に載っていた事件だったんだよ。この事件の嘘の部分にひどく魅了されて、監督の二コールにも「映画にしたらどうかな」なんて話したことがある。ところが、二コールは嘘が大嫌いでさ、「嘘の話なんて興味ない」って言われてしまった(笑)。
 それから何年もして、事件をもとにした小説が発表され、原作を二コールに読んでもらった。今回脚本を書いた彼女の息子も乗る気になって映画化に動いたってわけだ。

 −−ジェラルディンさんは15年間、夫の嘘に気がつかない妻を演じていました。話を聞くと何故気づかなかったんだと疑問が湧いてしまうのです。役の気持ちを理解するのは難しかったのでは。
 ジェラルディン 確かに初めはそうだった。どうして気づかないのか理解しがたいものがあったわ。一緒に暮らしていて何も見えないなんてありえないと思った。ところが、映画の訴えかけているものがわかるとそういうこともありえるかなとも思え始めたの。彼ら夫婦は相手を尊重し合い、お互いの自由も認めていた。相手を信じるというより、信じようという決意のもと夫婦になったんじゃないかと思うのよ。
 彼女は本当のことを見ようとせず、盲目の部分がありすぎたのだと思うのだけど。見たくないという思いが逆に災いしたのね。学校時代の夫の成績について嘘がわかると、ほんの些細なことなのにそれをきっかけにどっと疑惑が噴出してしまうのよ。

  −−ストーリー自体は重いものですが、現場の雰囲気は如何でしたか。
フランソワ まず私はストレス発散のためによく笑うようにしている。とても大事なことだよね。「見えない嘘」は確かに重い話だけれど、監督の二コールからは俳優へのつきない愛情を感じていた。彼女とは「ヴァンドーム広場」でも仕事をしたけど現場の雰囲気は和気あいあいとした楽しいものだったね。
ジェラルディン 二コールは企画そのものを自分の人生の一部として生きてしまう、撮影にのめりこんでしまう人なの。その集中力が現場に反映されることも多かったわ。
(取材/文:寺島まりこ)