ーー映画の舞台設定がなんといっても粋ですね。砂浜ではなく、敢えて砂利の海水浴場を選んだ辺りが。
ジュリー・ロペス=キュルヴァル監督 私もあの町が大好き。フランスの北の方、ノルマンディー地方にあるカイユ・スル・メールね。友人が住んでいるんだけど、以前訪れてすっかり気に入ってしまったの。

 −−メーンのキャラクター10人それぞれにしっかりとした性格づけがありますね。とはいえ、初監督作で群像劇は挑戦だったのでは?
 脚本を書いている時は自分が監督をやるなんて思ってもいなかったのよ。もともと私は脚本の仕事をしていたのだけれどプロデューサーに映画を撮ってみないかって誘われたの。私は短編と中篇を撮った。その後に「海のほとり」をプロデューサーに見せたら、「これがいい!」って。この映画はプロデューサーとの共同作業のようなもの。彼の薦めがなかったら撮ってなかったかもしれないし。

 −−脚本も随分書き直されたとか。
 ええ、もう、何度も何度も何度も。完成するまでに2年くらい掛かったわ。もちろん、その間に他のこともやっていたけれど。キャラクターの性格づけは書きながら決めていったの。最初は人物がもっと饒舌だった。もっといろんな事が起こって騒がしい話だったと思う。それをどんどん削いでいって、言葉ではなくて静けさで描写できるものを目指したの。

ーーローズ役のビュル・オジェは当初から想定していたのですか。
 脚本を書いている最中は役を設定するようなことはしなかったわ。ただ、ビュル・オジェとは仕事をしたいと思っていた。彼女は大ベテランだし、緊張もしたけれど、ものすごくオープンな女性で自分のキャリアのすごさを相手に意識させない気遣いのできる人だった。幸せなムードは撮影中もずっと続いて、スロットマシンでは本当にジャックポットが出たのよ。(※ローズはゲーム依存症)

 −−本篇はカンヌ・カメラドール(新人監督賞)を受賞しましたね。おめでとうございます。
 ありがとうございます。今回初めての長編だったのだけれど、この賞を頂けた事を誇りに思います。そして、この映画に携わってくれた方全員、スタッフ、俳優、とりわけビュル・オジェを誇りに思いますね。
(取材・文 寺島まりこ)