「刑務所で首を吊るシーンは本当に怖くて。あの場面では泣いてしまった(笑)」。こう語るのは「クロエの棲む夢」の少年ジョゼフを演じたヴァンサン・ロティエ。本作は両親に捨てられ、施設を抜け出しながら街をさまよう兄・妹が主人公。ジョゼフ役のヴァンサンもクロエ役のアデル・ハネルも演技経験は初めてというから驚きである。「撮影に入る前に6ヶ月ほどの準備期間がありました。朝10時から夕方の6時くらいまで、週に何度か監督と会って泣く練習、笑う練習、怒る練習をやったの。なんていうのかな、ゲームみたいな感じで楽しかった」(アデル・ハネル)。言葉を話さず、情緒的に不安定なクロエに入り込むのは難しかったと言う。「肉体的にはね、木から落ちるシーンが大変だった。木の下に500枚くらいのダンボールが敷いてあったんだけど。2mくらいの高さかな」(同)。ヴァンサンに言わせると木の高さは「いいや、1m50だった」そうだが。
 中途、近親相姦っぽい雰囲気を漂わせつつ、兄ジョゼフは妹クロエを何処までも愛す。ラスト間際で撃たれ、瀕死状態になるもクロエを守り抜こうとする。「実はジョゼフが死ぬ場面も撮ったんだ。だけど最終的にカットされてしまった。監督が観る人の想像に任せた方がいいって言って」(ヴァンサン)。「僕自身、ジョゼフがどうなってしまったのかはわからない。死んでしまったのかもしれないし、あの後で友達が助けに来たのかもしれないし・・・」。
現在、アデルは13歳、ヴァンサンは16歳。ヴァンサンは実年齢より幼くみえてしまったのだが、若いながらも複雑な人生経験を辿っている。兄弟の話を振ると「本当の兄弟といえるのは四人。片親が違う兄弟は9人。それと、もう一人、最近になって片親違いの姉の存在を知ったんだ」。悪いことを聞いたかと少々ハラハラしてしまったが、彼自身はあっけら。雑談に入ると窓の外に見える観覧車を指差し、「あそこの入場料はいくら掛かるのかな」と少年らしい発言も。2人の初来日は忙しすぎて観光どころじゃないらしいが、ヴァンサンは「東京には行ってみたい。えーと、なんていったかな、シブヤ。シブヤの109に行ってみたいんだ。安くていい感じの洋服が売ってるって聞いたから」だって。(寺島まりこ)